第16話 躊躇ウ

「なあ、どう思う?」


「何がって……」


「聴こえるだろ?〝こっち……こっち……〟って」


「うん……まあ……」


「安物のレコーダーだから音質は悪いけどさ。絶対に〝こっち……こっち……〟って言ってるように聴こえるよな?」


「……うん。でも、本当なのかよ?排水口から聴こえてくるって」


「本当だよ。シンクに一晩セットしておいたら、これが録れたんだから」


「うーん……引っ越した方がいいんじゃない?」


「やっぱり?でも、金ないしなあ。今のところは、別に弊害もないし……」


 ……言い出すべきなのだろうか。

 レコーダーの音声が〝こっち……こっち……〟ではなく、〝コウジ……コウジ……〟と、友人の名前を呼んでいるように聴こえるということを。

 それも、入水自殺したという友人の元カノの声色で。

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