　―――コン、コン

「入ってます」

　——―コン、コン

「……入ってますよ」

　——―コン、コン

「だから、入ってますよっ」

　——―コン、コン

　……まったく、何だというんだ。

「はいはい、出ますよ。出ますから」

　水を流し、身支度を整えて個室から出ると、

「……え？」

　トイレには、誰の姿もなかった。他の個室も扉は開いていて、人が入っている気配はない。

　イタズラだろうか？それにしては、出て行くような足音もしなかったが……。

　——―コン、コン

　振り返ると、さっきまでいた個室の中に、黒い影がいた。

　その、人の形を不器用に模したような歪な影は、苛立たしそうに壁を叩いていた。

　早く出て行けよ、とでも言いたげに。

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