第12話 思イ出ス

「ううっ……うっ……ひっ……うっ……」


「ほら、聴こえてきた」


「わっ、本当だ」


「な?言っただろ。女の啜り泣く声が聴こえてくるって」


「うん。でも、ここって事故物件じゃなかったんでしょう?」


「ああ、不気味なくらい何の事件も事故も起きてないんだよ。でも、真夜中になったら、こうして聴こえてくるんだよなあ」


「うぐっ……ひっ……ううっ……くっ……」


「うーん、どういうことなんだろ。部屋じゃないんなら……人に憑いてるとか?」


「やめろよ。俺、別に恨みを買うようなことしてないぜ」


「嘘つき」


「え?」


「リカのこと、もう忘れたの?あなたにズタボロにされた後、自殺したんだよ?知らないの?」


「な……」


「まあ、そうだよね。所詮、他人だもんね。でも、私はあの子の姉だから、忘れることはできないよ」


 リナが鞄から包丁を取り出した瞬間、


「うっ……くくっ……アハッ……アハハハハハハハッ……!」


 元カノの――リカの啜り泣く声が、嘲笑へと変わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る