第38話 買い物
しばらくして、郊外型の大型ホームセンターに着いた。
「ラップってどこだろうね?」
「ん~~食品関係だとは思うけど……」
私は、ショッピングカートを押す斎君と並んで買い物をしていた。
ホームセンターの中はとても広くて、私と斎君は商品を探しながら歩いていた。
「瑞樹ちゃん、見て、これ」
「へぇ~~履くだけで掃除できるスリッパ? それともモップ?」
歩きながら、斎君と何気ない会話を交わす。
そして、母に頼まれた買い物が終わることには、かなりの時間が経っていた。
「結構、時間かかったね」
私が買い物バックを持とうとすると、斎君がさっとバックを持ってくれた。
「まぁ、ここ広いし、想定の範囲内なんじゃない? でも広くで全部見れなかったから、また来たいな~~」
「そうだね……」
斎君が荷物を持ってくれてので、私が持つ物がなくなってしまった。
なんだか手持無沙汰になって、少し申し訳ない気持ちで歩いていると、斎君が駐車場に行く前に立ち止まった。
「アイス……ここで買おうよ」
「え?」
気が付くと、アイスが売っていた。
しかも、普段食べるアイスよりも高価だ。
「アイス……無事に林業研修も終わったしさ、その打ち上げ? たまには贅沢しよう」
どうやら、斎君は私が、車の中で何気なく言った言葉を覚えてくれていたようだ。
斎君は、いつもこうだ。
バイクのこと以外、無関心に思えるのに、ふとしたところで、私の言ったことを覚えていてくれる。
私は思わず笑ってしまった。
「うん。たまには贅沢しよう!」
こうして、私たちは、高価なアイスを買って、車に戻ったのだった。
車の中で、斎君と並んで、アイスを食べた。
口の中に冷たさと、甘さが広がって、『ああ、私、疲れてたかも……』そう思えた。全部食べ終わると、口の感覚が冷たさで麻痺して、どこかぼんやりとしてしまう。
「瑞樹ちゃん見て」
斎君が舌を出すと、下に色がついていた。
「あはは。あ、私もだ」
私も少し身体を移動せて、サイドミラーで自分の舌を見た。
私も色がついていた。
「あはは、瑞樹ちゃんも舌、塗装されてる……さてと、帰りますか」
「うん」
車の窓からは、のんびりとした風景が見えた。
ゆっくりと時間が流れる幸福な時間。
私は、この時間を心から愛おしいと思ったのだった。
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