第39話 ロッジにて
斎君と、車の中で、日常の何気ない話をしながら、ロッジに着いた。
車を降りると、Tシャツの背中の色が変わるほどの汗をかいた綿貫君と、父が歩いて来た。
「ただいま~~」
「ただいま戻りました~」
私と斎君があいさつをすると、父と綿貫君が「おかえり」と言って出迎えてくれた。
「今日は何をしたんですか?」
斎君の問いかけに、父が答えた。
「今日は、吉田さんの親戚の人が、手伝ってくれて駐車場のコンクリートの打設作業をしたんだ」
「え? コンクリートって、個人で出来るの??」
私が思わず尋ねると、父が笑いながら答えた。
「ああ、手伝いに来て下さった吉田さんの親戚の、まぁ、この方も吉田さんなんだが……吉田さんは、自分で何度もやってる方だ。その方に教えて貰ったんだ」
「へぇ~~」
私は、父の隣で疲れて、へとへとになってる綿貫に声をかけた。
「ありがとう、綿貫君。お疲れ様」
すると綿貫君が困ったように言った。
「俺、あんまり役に立ててないよ……本当に全然」
綿貫君の言葉に、父がすかさず、声を上げた。
「何を言ってるんだ。綿貫君の左官はなかなかの物だった。かなりキレイに出来ていて、吉田さんも『初めてとは思えない』と言っていたんだぞ」
私は、今度は父に話かけた。
「それで? 終わったの?」
「いや、まだだ……北側の一部が終わったから、明日からは、斎も手伝ってくれるか」
父の言葉に斎君が、笑顔で答えた。
「はい」
どうやら、明日は斎君もコンクリートの打設作業をするようだ。
私は、綿貫君にお礼を伝えた。
「綿貫君。ごめんね、手伝ってもらって」
すると綿貫君が、困ったように言った。
「午前中は勉強したし、俺はそんなに手伝ってないよ。むしろ、お手伝いをするからって、連れて来てもらったのに、このくらいの手伝いしか出来なくて、申し訳ないくらいだよ」
すると、斎君が、笑いながら言った。
「綿貫君、そんなこと言わない~~!! とにかくさ、シャワー浴びてきたら?」
「あ、そうだね。ありがとう斎君。シャワー借ります」
綿貫君が父に確認を取った。
「ああ。どうぞ、どうぞ」
父はそう答えると、今度はロッジの炊事スペースに足を向けた。
「俺、手伝います」
斎君が、父の後ろを歩きながら言った。
「ああ、ありがとう。今日は、2人の林業研修が終わった打ち上げだ!! 今日は炭火でスペアリブだぞ~~」
「おお~~!! 楽しみですね~~」
「だろ~~?」
斎君と、父は楽しそうに、話をしていた。
私が車の中のクーラーボックスから荷物を取り出そうとすると、斎君がやって来て、スッと荷物を持ってくれた。
「これは、俺が届けるから、瑞樹ちゃん少し、ゆっくりしてなよ」
斎君はそう言うと、荷物を持ってスタスタ歩いて行ってしまった。
私は、やることがなくなってしまったので、ロッジの中に麦茶を飲みに行くことにしたのだった。
◆
キッチンに着くと、夕食の用意をしていた母に声をかけた。
「ただいま~」
「ああ、おかえり。買い物、ありがとう。さっき斎君から受け取ったよ」
私は冷蔵庫から麦茶を取り出しながら言った。
「どういたしまして~~」
そしてコップを取り出そうとすると、母が言った。
「麦茶、ついてでにお願い」
「は~~い」
私は、母のコップを出しながら尋ねた。
「あ、お父さんも、綿貫君って水分取ったのかな? お母さん、一さんは?」
「ああ、一さんは、まだ工場から戻ってないよ。でも他の人は今戻って来たみたいだし……みんなの分も入れてあげて」
「うん」
私は、母と、父と斎君と、綿貫君の分を用意した。
そして麦茶を注ぐと、母に渡した。
「はい」
「ありがとう~~」
母は喉が渇いていたようで、ゴクゴクと麦茶を飲んだ。
「お母さん、喉が渇く前に水分取らなきゃ、倒れちゃうよ」
「そうね。気をつけるわ」
私は、母に水分を取るように言うと、トレーに3つの麦茶を入れるて、まずは、父と斎君がいる炊事スペースに向かった。
「麦茶持ってきたよ~~ここに置くね~~」
「ありがとう~~瑞樹ちゃん」
「ああ、ありがとうな、瑞樹」
私は炊事スペースの近くにあるテーブルに、コップを置くと、シャワーを浴びた後の綿貫君が涼みに来るリビングに向かった。
丁度リビングに着くと、濡れた髪のままの綿貫君が現れた。
「あれ? 工藤も休憩?」
「まぁ、休憩かな? 綿貫君、麦茶どうぞ」
私が麦茶を差し出すと、綿貫君が嬉しそうに言った。
「ありがとう!! でも、工藤の分は?」
綿貫君に聞かれて、そう言えば、自分の分を用意することを忘れていたことに気付いた。
「ああ、そう言えば、みんなの用意したら忘れてた。ちょっと戻って飲んでくるね」
そう言うと、綿貫君が、突然笑い出した。
「あはは。忘れてったって……工藤が飲みたくて麦茶取りに行ったんじゃないのか?」
「まぁ、そうなんだけど……」
すると、綿貫君が私に麦茶を差し出した。
「半分、飲む?」
「え? いいよ、いいよ。自分の分は自分で持って来るから」
私が、首を振ると、綿貫君が笑った。
「そう? 先に飲んでもいいよ?」
「大丈夫だって、じゃあ、行ってくるね」
「うん。工藤、麦茶ありがとう」
綿貫君が嬉しそうに笑ったので、私まで嬉しくなった。
「いえいえ。これから、綿貫君はどうするの?」
「俺は、少し涼んだら、斎君たちの手伝いに行くよ」
「ありがとう、じゃあね」
私は、今度こそ麦茶を飲むために、もう一度キッチンに戻ったのだった。
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