第14話 悩みのトンネル(1)
次の日は、一日、何も手につかなかった。学校に行っても、どこかぼんやりとして、昨日の練習を繰り返し、繰り返し、頭の中で再生していた。
「瑞樹……何かあった?」
お昼を食べていたら、莉奈に顔を覗き込まれた。
昼休みは、莉奈と愛音に彼氏が出来ても、4人でのんびりと昼食を摂りながら過ごすことが多かった。
「そうだね……あった。自分の実力不足を突き付けられて……凹んでた……」
楓が、驚いたような顔をした。
「瑞樹でもそんなこと思うんだ……こんな言い方したら、悪いとは思うけど、瑞樹が凹んでるの初めて見た」
楓の言葉に、私はじっと楓を見つめた。そう言えば、私がバイクのことで、これほど凹んでいるのは、本当に初めてかもしれない。
これまでいつも、上手くいかなくて、悔しい思いをしたこともあるし、もう、バイクなんて乗りたくないと、思ったこともあった。
だが、手に負えないと絶望したのは初めてだった。
思えば、私は、これまでずっと、一さんの方針に沿って練習してきた。バイクに関する全てを、一さんにゆだねていた。練習方法から、バイクの整備に、練習日の調整、練習やレース場までの送り迎えに、レースに出場するか、しないかの決定。レースのコース取りまで相談していた。
ところが、一昨年の冬に、一さんが、膝の手術で入院して以来、これまで一さんに任せていたことを自分で考えるようになったのだ。
バイクの整備だって、一さんは、私にとって最高の状態を保ってくれていた。
でも、斎君は常に、バイクにとって最高の状況を保とうとする。
私は、みんなを見ながら尋ねた。
「もしさ、これまで誰かに頼ってたことを、自分で全部することになって、それで、上手くいかなくなったらさ……どうする?」
すると、調理部の部長の莉奈が「ん~~」と考えながら言った。
「どの程度を、自分だけでカバーするかもにもよるけど……頼れる人がいる時は、頼るとか? アドバイスを貰ったり、どこが問題か客観的な意見をもらったり」
「頼る? アドバイス」
すると楓が頷きながら言った。
「うん。実は私、どうしても、球が浮き過ぎてて悩んでたんだ。コーチにフォームは褒められるのに、どうしても球が浮いて……それで、プロの選手も通う専門店の人にラケットを見てもらったら、ガットが、私のパワーと合ってないのかもって言われたの。その人のアドバイスで、ガッド変えたら、信じられないくらい良くなったの。
私さ……それ以来、技術はもちろん大切だけど、道具っていうのも、大切で、そういう相談ってのもありだな~って思ったんだ」
「道具の相談か……」
元テニス部の楓の言葉に、莉奈も頷いた。
「だよね~~。料理でも、フライパン一つで、恐ろしく味が変わったりするしね~~」
「フライパンで味が変わる……」
私が、ぼんやりとみんなをみていると、愛音が私を見て困ったように言った。
「私に、できることがあったら、遠慮なく言ってね……」
「ありがとう」
嬉しくて、お礼を言うと、莉奈と楓も笑いながら言った。
「私にも言ってね」
「私も!! 有効期限は、私の命が尽きるまでってことで」
「長っ!! あははは、2人共ありがとう」
私は、嬉しくて、思わず笑ってしまったのだった。
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