第13話 それぞれの関係性
斎君とバイクの関係が、親と子や、恋人同士のような愛情で結ばれた関係だとすると、私とバイクの関係は、兄弟の関係のような少し複雑な関係だ。
いつも側にいて、切磋琢磨し合う。でも、時には激しくケンカして、顔も見たくないと思う。
それでも、やっぱり大切で、互いに譲歩しながら関係を築いていく。
そんな関係だ。
斎君は、いつもバイクのポテンシャルを最大に高める整備をしてくれる。
これを乗りこなせ、と挑戦状を叩きつけるように。
私は、思い切り加速すると、カーブジャンプ手前でクラッチを切り替えた。
くっ!! クラッチのタイミング遅かった!!
私は、タイミングを外してしまって、技に入る前に、前輪を滑らせてしまった。
体勢を崩してしまって、ヘルメットの中で、顔をしかめる。
身体には傷はない。
――でも、心には擦り傷ができる。
失敗は、恐怖心に繋がる。
恐怖心は、チャレンジ精神を抑制する。
もう少し、という失敗なら、次こそ!! と思うが、成功までが遠いと感じると、足が止まってしまう。
今ので……ダメだったか……かなり慎重に挑んだのに……。
無謀なことをしたつもりはない。
つまり、絶対的な練習不足だ。
これを、乗りこなすには、この調整に、もっともっと慣れる必要がある。
私は、バイクを起こして、またがった。
今の私には、このバイクのことを知る時間が必要だった。
私は、カワサキに、またがり、ハンドルに手をかけると、初心者向けの基本的なコースに戻った。
結局、その日は、初心者向けのコースで、カワサキの新しい調整を確認するというところまでしか行かなかったのだった。
時間になり、私はゴールとヘルメットを取りながら、ギリッと奥歯を噛んだ。
練習時間が少なすぎる……。
16歳くらいまでは、少しの練習で、すぐにコツを掴めた。本当になんでも簡単に出来た。
斎君が習得に苦労してウィリーだって、私は、小学生の時に、たった1回の練習で出来るようになった。バイクだって、少し際どい調整をしても、すぐに慣れて、乗りこなせていた。
でも……。
少し前から、その身体が勝手に動くという感覚がなくなった。何度も自分に教え込まなくては、変化に対応出来なくなってきた。
私は、不満が残ったまま、練習場を後にしたのだった。
練習場を出て、最初のコンビニに、斎君が車を止めた。
私たちはいつも、練習が終わったら、このコンビニで飲み物を買っていた。
一さんはいつも緑茶。斎君は、カフェオレ。そして、私は、強炭酸水を選んだ。
コンビニを出て、すぐの信号で、斎君が私に尋ねてきた。
「瑞樹ちゃん、強炭酸水を選んだってことは、練習上手く行かなかったの?」
「え?」
私は、思わず、運転をしている斎君を見つめた。斎君は、困ったように言った。
「あ~~もしかして、無意識? 瑞樹ちゃん、上手く行かなかった時って、大抵、それ飲んでるでしょ? そして、満足した日は、ミルクティー」
「……」
斎君に言われて、そう言えば、そうだと思った。自分にそんな習慣があったことに改めて気づいて、驚いていると、一さんが呟くように言った。
「もっと、時間をかける必要がありそうだな……焦るなよ、瑞樹」
一さんは、全てお見通しだった。
そうだ。
カワサキを乗りこなすには、後、数回は、基本走行を繰り返して、タイミングを掴む必要がある。
絶対的な練習不足だった。
全然呼吸が合ってない。
むしろ、ケンカばかりしている兄弟のように、波長が合わない。合わせたいと思っているのに、理解したいと思っているのに、何かが足りなくてかみ合わない。
そんな状態だった。
「今回のレース、出場見合わせようかな……」
そう呟くと、一さんが、唸った後に言った。
「次の練習の時、相棒(カワサキ)と決めろ……」
「……そうする」
私は、そう答えて、強炭酸水をゴクリと飲んだ。喉に刺激を感じて、どこかほっとする。そして、高速道路からの景色を眺めながら、今日の練習を反省していたのだった。
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