第5話 なぜなのか

 罪、という単語をいくつか書いたが、きっと説明不足であったと思う。


 何も知らず、何も関心を示さず、流されるままに目の前の享楽だけに生きる子ども。


 いやいや、普通ではないか?子どもだぞ?


 ではなぜ罪と呼ぶか。


 それは今の僕が大人だからだろう。だから結果を見て、振り返って思うんだろう。


 子どもながらに、どうにか出来なかっただろうか、と。


 貧乏に気づけて何が出来たか?協力的になって金儲けに手を貸せたか?


 無理だ。


 天才児じゃあるまいし。僕は無知蒙昧で愚かな子どもだったんだから。


 じゃあ子どもに出来ることって?


 よく言われてたではないか。“子はかすがい”ってさ。少なくとも、両親の離婚を回避する役には立てたのかも知れないのに。


 そうすればきっと、借金取りに追われる極底辺の人生を歩んで諦めもついたかも知れないのに、って。


 半端に、並っぽい生活が出来たばかりに、その代償として奪われた子どもとしての時間が惜しまれる。


 奪われたと被害者ぶる自分もどうなのかと思ったりしてな。


 でも本気で、親戚など頼らずに母子5人でゴミみたいなアパートで雨風しのぐのが精いっぱいな生活でも良かったと思う。


 それ以上は失わずに済んだかも知れないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る