負け惜しみではありません
ボブの呟きに黙って頷いて様子を伺うと 馬から降りた王子は塔の上に向かって何か呼びかけた。
ああ、ラプンツエルだね。ほら、女の子が顔を出した。
「王子、先を越されましたね」
「ううん、あの子はちょっと好みじゃないから……」
「王子、負け惜しみですか?」
うーん、なんかね、あの娘は約束守れないし、嘘つくし、あんまり好きになれないんだよなあ。でもまぁ、実際に嘘をつくところを見たわけじゃないから黙っておく。あの王子が心変わりして、登るのを止めてしまったらまた物語が変わってしまうしね。
「さあ、あなたも王子なんですから、きっと姫は見つかりますよ」
黙った僕に何を思ったのか、元気づけるようにボブが言う
「本当に好みじゃないんだってば!」
「左様でございますか」
ボブは僕の肩をポンポンと叩くと、先に立って歩き出した。
「王子 湖があるようですよ」
「本当にボブは目が良いね、僕には何も見えないんだけど?」
「湖に行けば、きっとカエルが居ますよ」
そう言いながら歩くボブについて行くと、本当に湖が見えて来た。僕の執事は有能だね。
目の前には空は青く、雲は白く、おひさまは照り、牧草地は緑で、湖は済んでいるっという童話的な景色が広がっている。そんな平和な空の下で、僕は今度こそ、あのカエルにあって文句を言ってやろう。っと息巻いた。
「何か来ますね?」
「ボブは相変わらず、眼が良いね」
「恐縮です」
確かに、前方から何か小動物?らしきものが列になって歩いて来る。僕達もその列に向かって歩いていくと、それは
アヒルの隊列だった。
白いアヒルの後ろに黄色い幼鳥が、あっちへ、こっちへ、寄り道しながら歩いている。なかなか可愛い様子に僕だけでなく、ボブの頬も緩んでいる。
「王子、見ました?」
突然ボブが言う。さっきと同じで、僕には何のことだかさっぱりわからない。
「ボブ、何が見えたんだ?」
速足になるボブに併せて、走るようにしてアヒルの行列の方へ行くと……子アヒルたちは、ミミズやカエルをついばんでいた。
「カエルだね」
「左様でございます」
カエルくん、食べられちゃったんだね。合掌
僕はそのまま 草の上に座り込む。もう、文句を言う相手、いなくなっちゃったんだね。
茫然としている僕の前をとぼとぼと灰色のヒヨコが横切っていく。何だあれ?あ、『みにくいアヒルの子』だね。
呪い回避の方法を知りそうな、文句を言う相手を失って黄昏るしかない僕には、これから色々とあっても結局は白鳥として自由に空を飛ぶ未来が待っている”みにくいアヒルの子”は羨ましいとしか思えないよ。
アヒルの子に向ける僕の羨望の眼差しに気が付いたのだろうか、ボブが僕の頭を撫でてくれた。
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