エル・ガンズド
――王国歴1484年 4月 決戦六日目 スルト城 玉座の間
バーノンの僅かな隙を突き、ギークが飛び込んでいく。
血濡れの剣は爆炎大刀・炎魔に直撃し、途端にみるみると輝きを失いくすんでいく。これが、バーノンが懸念していたことであり、血塗れの剣の本来の使い方でもあった。
血塗れの剣の本来の役割は、マジックアイテムの破壊である。剣の刀身をぶつけることにより、マジックアイテムに宿るルーンを消し去る。これにより、爆炎大刀・炎魔は、ただの大剣と化した。
「本当に不愉快なガキ共だ! この大陸を治める覇道を邪魔しおって」
ムーアはそれを鼻で笑うと、剣を構えて言った。
「邪魔されても突き進むのが覇道なんだよ、爺さん、てめーの道は邪道だ」
ギークは、ゆっくりとバーノンの反対側に回りながら、珍しく少し笑い、言う。
「覇道を進んでいるところ申し訳ないが、私は私の任務を遂行させてもらう」
バーノンの額に、今にもはち切れそうな青筋が立つ。
「次で殺してやる、小僧共」
そう言うと、バーノンは詠唱を始めた。当然ムーアは、それを妨害しようと飛びかかるが、詠唱中のバーノンの周りに次々と火球が現れ、ムーアを襲った。
これは、火球魔法「プロティフィロガ」であるが、最高峰の魔法使いがそれを使えば、無詠唱で、半自動的にそれを放つことも可能である。とは言え、ここまでの大きさの、ここまでの量のプロティフィロガの同時展開をできるのは、かつて大乱の世を、最前線で戦い抜き、実力のみで一国の主にまで登り詰めた、英雄バーノン大王だからこそである。
そうしている間にも、バーノンの周囲に大小様々な魔法陣が複数個展開される。展開された、魔法陣からは熱線が連続して照射され、後方で支援していたムーアの仲間、四名を襲った。
障壁魔法で守られているドラッドであったが、いとも簡単に障壁は突き破られ、心臓を貫かれる――。
「すみません! 頭っ!」
ドラッドは、そう言うと、最後の力を振り絞り、全魔力を足元のムーアの魔法陣に送り込んだ。魔法陣を伝わり、ムーアの体に魔力が流れ込んでいく。
「コートビーの元へ集まれっ!」
ムーアが叫ぶと、ドラッドが託してくれた魔力を使い、球体を複数連結させて、簡易的な安全地帯を作り出した。これは、同時に仲間からの援護を捨てる行為であり、ムーアの仲間を守る意思に基づいた行動であった。
「ドラッド、確かに受け取ったぞ……!」
ムーアは、胸に手を当て、ドラッドの魔力を感じ取り、バーノンに向かって強烈な殺気を放った。
吸収の許容上限がしれているギークよりも、反射を持つムーアの方が、脅威であると考えバーノンは、ほとんどの火球を集めてムーアの居る方向へと射出した。ムーアは反射魔法を使い、火球を跳ね返し続けていたが、火球の量が多すぎる為、相殺がやっとな状況である。
更にバーノンには、まだあの奥義がある。
大きく股を開き、全身を強張らせると、体中に魔力を集中させ始めた。それに伴い室内は嵐のような強風が吹き荒れる。
火球に手間取っている間に、魔法の詠唱を終わらせたバーノンは、天高く拳を振り上げる。
すると、今まで集まっていた魔力が左手に集中する――。
「エル・ガンズド!」
これが、駐屯基地を跡形もなく消し去り、国境要塞を瓦礫と化した魔法。
通称、『大王の怒り』である。
ムーアは「エル・ガンズド」を警戒して、バーノンから更に距離を取る。だがギークは逆で、こともあろうか、バーノンに特攻する構えを取り、真剣な眼差しで、ムーアに言う。
「流石にあれは耐えられない。……こうなれば、玉砕覚悟の相打ちしかない。もし取り損ねたら、後は頼みましたよムーア大佐」
ギークは一気にバーノン目掛けて突っ込んで行く――
「おいっ、よせっ! 止まれっ!」
ムーアが制止しようとしたが、魔力が渦巻く轟音にかき消され、ギークには届かなかった。
満を辞して、バーノンの拳が振り下ろされる。
…………
…………!
拳は空を切っただけで、付近の魔法陣を含んだ全ての魔力が散り散りに消えていった。
「ば、ばかなっ!」
バーノンは狼狽えて、片膝をついた。
バーノンの顔には僅かであるが、ヒビが入っている。これは、オーバーフローの兆候だ。
そして、バーノンの目の前まで走り込んできていたギークは、迷わず剣を振り上げる。
「待てっ! 殺すなっ!」
ムーアが叫んだと同時に、ギークの血塗れの剣がバーノンの首を落とす。
バーノンの返り血を頬に浴びたギークは、温度の無い表情で言った。
「そんな悠長なことを言える相手じゃなかったでしょう」
バルグの魔法は、「発動時に」ストックをした者の魔力を使用する。こういった都合から、バルグとバーノンが同日に全く別の場所で発動したことにより、本来の使用量である魔力に加え、九割分の魔力が上乗せされて消費された。
これにより、本来であれば、一日休み休み撃てば十回ほど使用できる大王の怒りが、瞬間的に許容上限を超え、オーバーフローを引き起こした。
ヴィクトは、この瞬間を予測していた。
そしてギークは、ヴィクトの決して狂わない計算を信頼していた。
この日、この時間を狙い、バーノンと対峙し、不発を知った上で特攻していたのだ。
必殺の魔法を持つ者が、土壇場まで追い込まれ、いよいよとなれば暴走する事、そしてその状況を作り出す事。最後の最後まで、ヴィクトの思惑通りに駒は進んでいく。
こうして、ギークは無事に口封じを行うことができ、戦争は終結へと向かっていく。
ムーアは、ギークに対して薄い疑いを持っていたが、断定できるような事もそこには無かったことに加え、命懸けの特攻を見たムーアは、そこに対する熱量を肌で感じ、「ギークに対しては」疑念を捨て去った。
その後、祠に待機させている隊員と合流すると、ドラッドの亡骸と共に、ルストリアへ帰還した――。
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