結びの三手
――王国歴1484年 4月 決戦二日目 シャングア遺跡
クロードが向かっていった先に居るバルグは、強弓を構えて駆け寄ってくるクロードに照準を合わせていた。
ボンッ――!
という轟音と共に放たれた矢は、雷のように素早くクロード目掛けて飛んでいく。しかし、その矢は激しい音を立ててひしゃげて弾かれた。クロードの後方にはノガミがぴったりとくっつき、障壁魔法を展開していた。ノガミはヒビが入った障壁魔法見て、愚痴をこぼす。
「魔法でもない通常兵器にヒビを入れられるなんてね! 自信無くしそうだ」
クロードは、駆けながら「助かった。ありがとう」と呟くと、更に加速してバルグに近づく。しかし、あと一歩というところで、これを追いかけてきたガーラントに阻まれた。
そして、更にホランドにより、ガーラント抹殺の特命を受けたカイがそこに加わると、ガーラント・バルグ対クロード・ノガミ・カイの構図が出来上がった。
クロードについていった兵士以外は、ホランドが指揮を執ることとなり、スルト軍へと前進をした。基本に忠実な行動指針により、歩兵には歩兵、魔導士が出てきた場合は自身で対処を繰り返し、時間をゆっくりと進めていこうという企みであったが、それを看破したアンは、残りのエスパーダ全てをホランドに向けて派遣した。ホランドがそれに気がついた時には既に遅く、ホランド隊は魔導士百名と、歩兵四千名に取り囲まれてしまった。
その頃――野獣二匹は、接近戦の苛烈な殴り合いを行なっていた。
(なんだこいつ、殴っても殴っても回復してやがる)
ドガイがそう思っている時。
(こいつの魔力が頭に響いて、打たれる度に動きが鈍くなってきやがる)
ボルグも同様に脅威を感じた。
「ガラガラガラ。いいぜーっ! こっちも本気だっ!」
そう言って、背中から取り出したのは二本の手斧であった。ヒュンヒュンと音を立てて振り回し、ドガイに近づいてくる。
ドガイは先ほどまでとは違い、消極的な戦いを余儀なくされた。ドガイの身に纏うベールは、いつもであれば拳に巻きつけ叩きつけることで最大威力を出すが、今相手にしている男の膂力を鑑みれば、その力で振り下ろされる刃物の殺傷能力は容易に想像がついた。
不得手ながら、防御の為にも魔力を使わなければならないが、問題はそこに割く魔力値などではなく、単純に気が散る事にあった。
(ちょっとヤバいか……。迂闊に懐に入れねえ)
かたや、バルグ・ガーラントと対峙するクロード達。ここでカイは固有の特異魔法を放つ準備を始める。
「クロード、ノガミ、一分でいい。時間を稼いでくれ」
カイは二人にそう言うとすぐさま詠唱を開始した。それに気がついたガーラントは、詠唱を阻止しようと駆け寄る。クロードはそれを阻み、カイを守る。少し離れたところから、バルグは強弓を射るが先程と同様にノガミの障壁魔法によって防がれた。
「ワールワール 重ねて丸める
ドーズドーズ 膨らみ詰める
ワールワール 重ねて丸める
ドーズドーズ 膨らみ詰める」
複数回カイは同様の詠唱を繰り返す。徐々にカイの手のひらの空間が歪んでいく。
「よし、溜まった。
ワイズワンダワンド!」
カイはその歪みを振りかぶると、バルグのいる辺りに向けて投擲した。しかし、投擲したものの、空間の歪みは極めて見えづらく、まるで何も起きていないかのように見えた。
バルグは、何かしらの魔法が放たれたことは確信していたため、腕を胸の前で交差し、防御の姿勢をとった。その腕に僅かに何かが当たったような感触を感じた途端、バルグは背後にある闘技場の入口を綺麗に突き抜け、遥か後方まで吹き飛ばされた。
その場にいるノガミ以外の全員が驚きを隠せなかったが、これを好機と踏み、クロードはガーラントに切りかかった。
「はぁはぁ、……ノガミっ! ドガイの援護に……向かえ」
カイは、魔力消耗のため息を切らしていたが、声を絞り出しノガミにドガイの元へ行くように伝えた。
その頃、ドガイは手斧を扱うボルグ相手に、苦戦を強いられていた。
「おぉい! 大したことねぇなぁ。お前も得物使えばぁ?」
ボルグは手の平で手斧をクルクルと回しながら、近づいてくる。
「あいにく、こいつが俺の得物なんでね」
そう言うと、ドガイは拳を突き出す。
「その自慢の拳も、俺が手斧使い始めたら全然活躍しなくなったじゃねぇーか」
ボルグはドガイの目の前まで来ると、手斧を振り上げた。ドガイはまた激しい打ち合いになると拳を構えた。
「空間断裂の盾
ゼフロスの西風からその身を守れ
テイコス・フィラカ!」
突然、ドガイの体を中心に球体の障壁魔法が展開される。ボルグの手斧は障壁魔法に弾かれた。
「苦戦してんの? 兄貴」
そう言って、背後から現れたのは駆けつけたノガミであった。
「今から反撃するところだったんだよ!」
そう強がるドガイをよそに、更にノガミは続けて詠唱する。
「永久拘束の檻
アレンスの鉄槌さえ届かないその叡智へ
フィラカ・アンフィニ!」
重なる障壁魔法を目にして、ドガイはブンブンと腕を回し、魔力のベールを拳に集めた。
「ああ、うぜぇ。お前ら兄弟かよ。気持ち悪ぃ」
そう言うと、ボルグは手斧を障壁魔法に叩きつけた。しかし、障壁魔法には一切傷がつかずに、ボルグの手斧が欠けただけだった。
「さて、お返しだ!」
ドガイは、青白く光る拳をボルグの腹目掛けて打ち込んだ。瞬間、ボルグの腹部はバラバラになり、その場で
それを見たノガミは、再生したボルグの体を指差しながらドガイに尋ねた。
「んで、兄貴、こいつどうすれば死ぬの?」
「知らんっ!」
取り囲まれたホランド隊は、
エスパーダの放つ様々な魔法により、兵は次から次に倒れていく。魔法の詠唱を阻止しようにも、スルトの強靭な兵士達に行手を阻まれふりだしに戻ってしまう。
魔導兵士であるホランド、パルペン、ユークリッドもこれを打開する魔法は所持しておらず、万事休すといった状況であった。
「これ、まずいっす。これ、まずいっすよ!」
そう言って狼狽するユークリッドに対して、ホランドは何かおかしい点を見つけたようで、それを探るように取り囲む兵士を凝視していた。
「……全く、流石にこれは想定外だ。お前達、この後形勢が変わる。乗り遅れるなよ」
ホランドがそう呟くと、突然に取り囲むスルト兵の一人がその場に倒れ込んだ。背後から心臓を一突きにされた兵士の後ろをよく見ると、それはミクマリノの兵士の仕業であった。
「えぇ!? どういうことっすか?」
単純に疑問に思うユークリッドであったが、それに答えたのは取り囲むスルト軍を切り払って出てきたルストリア国軍魔導部隊パンテーラのバルバロッソであった。
「ふははは! 何とか間に合ったか! 蹴散らすぞお前らぁ!!」
「応っ!!」
バルバロッソが、援軍を率いて闘技場内を荒らしまわりながら、ホランド達の元へ駆けつける。そして、今起きている事のあらましを簡潔に伝えた。
この闘技場における、複数の戦場でミクマリノ軍が
「やってられるかっ! なんなんだよ!」
「落ち延びるしかねえ、野郎ども退くぞ!」
傭兵や異民族で構成された、非正規軍は口々に撤退を促し、この戦場と後続の予備軍数万が、散り散りに消えて行った。彼らからしてみれば、絶対勝利と聞いたこの戦争が、苦戦の連続、ましてや今では「敗北」の二文字さえ浮かぶのだから、当然の結果と言える。
「……」
アンは言葉も瞬きも忘れ、ただその場に立ち尽くしていた。
いよいよ、ヴィクトの壮大な計略が、ついに実を結び始めようとしていた――。
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