第304話 ボクサーカンガルー 3

 互いに睨み合いを続けたまま休息を取りましたが、カンガルーたちの様子が少し変化しました。

 耳をピクピクと動かして、突然走り去ってしまったのです。


「えっ? 逃げていきましたね」

「ヴュ〜!」


 倒れて魔石になっていなかったカンガルーさんを食されているミズモチさんが返事をしてくれます。

 三メートルを超える巨大なカンガルーを食べてミズモチさんが凄く嬉しそうです。カンガルーって美味しいのでしょうか? カンガルーたちがいなくなったので、スマホで調べてみると、カンガルーが多くいる国では当たり前に食べられているようです。


 栄養価が高く、高タンパク質。

 脂分が少ないので太りにくく、筋肉を作り出すのに最適なお肉だそうです。

 味も赤味が多く煮物などにすると、美味しくいただけるそうです。


「ミズモチさんはグルメですね。私ラクダやワニは食べたことありますが、カンガルーさんは食べたことがありません」


 ミズモチさんは倒したカンガルーさんを美味しくいただかれました。


 ーーズン! ズン!


 ミズモチさんの食事風景に和んでいると、地面が揺れるような音と共に一匹の魔物が現れました。

 茶色い毛並みをしたカンガルーさんの中に一際小さな二メートルぐらいの真っ黒なカンガルーさんが、肩に真っ赤なバスタオルをかけて、大勢のカンガルーさんを引き連れてやってきました。


 危機察知さんが、カンガルーさんの数に危険を知らせているのか、黒いカンガルーさんに危険を知らせているのかわかりませんが、ブラックに近いレッドな危険を知らせてくれる。


「……ミズモチさん。逃げますか?」

「ヴュ〜!」

(強い!)


 私たちの前まできた黒いカンガルーさんは、俊敏な動きを見せるためにシャドーボクシングを始めました。

 腕が速すぎて、全く見えませんが、シュッシュッと音だけが聞こえてきます。


「はっ!」


 こちらにどうだと言わんばりの顔で見てきます。

 ですから、私はミズモチさんにライドンすることにしました。


「最初から油断しないで行きます」

「ヴュ〜」


 全ての強化を終えた私は黒いカンガルーさんと対峙します。

 普通のカンガルーさんたちよりも位が高いのですが、ボスなのでしょうか? これまでの敵は強い魔物は、黒よりも白いに近い方でした。


「行きます!」

 

 私とミズモチさん、黒いカンガルーさんを囲むように普通のカンガルーさんたちが円を作っていきます。


「まるでリングのようですね」


 大きな円を作ってこちらを見ております。

 囲んだカンガルーたちは腕を組んで私たちの戦いを見守るようです。


「それでは始めましょう」

「ふんふん!」


 鼻息荒い黒いカンガルーが何度もボクシングのワンツーをしながら準備を終えると、フットワークを駆使したステップを踏むようになりました。


「来ます!」


 前傾姿勢になった黒いカンガルーさんが飛び込んできました。


 動きはミズモチさんに任せて、私は常の型で、相手の動きに合わせて攻撃に構えますが……速い!


「ミズモチさん!」


 どこから殴ってくるのかわからないので、大袈裟にミズモチさんが避けてくれます。私の顔があった場所にシュッという音だけが後から聞こえてきて、私が避けたのを見てついてこられます。


「なっ!」


 ミズモチさんの高速な動きについてきています。

 いつもは体が大きく、動きは鈍い敵が多かったのですが、今回の敵は体は少しだけ大きく動きが早いです」


「くっ!」


 払いのけるために白金さんを振るいますが、捉えることができません。

 

「速い敵にはどうやって対処すればいいのでしょうか?」


 強い敵や、たくさんの敵には会ってきましたが、攻撃が当たらない魔物さんは初めてです。私が攻撃をしても避けられてしまいます。

 

「ミズモチさん、どうしましょうか?」


 魔法を放とうにも、こちらが魔法を放つ前に攻撃を仕掛けてくるので、ノータイムで使える技は一つしかありません。


「ミズモチさん。魔法を使います。避け続けていただけますか?」

「ヴュ〜!」


 ミズモチさんも、黒いカンガルーから逃げるのに必死で、魔法を使う余裕はないようです。

 カンガルーはシャドーをしていたパンチだけかと思えば、後に回ったミズモチさんを蹴って攻撃をしてきました。


 こちらを見ないでも攻撃してくる黒いカンガルーさんですが、私の正面にきた時だけは、絶対に私の顔を狙ってきます。

 一撃でノックアウトを狙っているのでしょうが、なら私にも方法があります。


「ミズモチさん」


 私は念話さんを使って、作戦を伝えます。

 二人にしか聞こえないやり取りはカンガルーさんには聞こえません。


 ミズモチさんがバウンドして、たかだかと飛び上がりました。

 夕日に紛れる私たちに、黒カンガルーが眩しそうにしながらも攻撃を仕掛けてきます。


 ですから、私は目の前で


「ライト!」


 完全に目を閉じた黒カンガルーが突き出した拳にクロスカウンターで白金さんを放ちました。


 鬼人化した私の顔面に黒カンガルーの拳がめり込み。

 黒カンガルーの胸に白金さんが突き刺さりました。


 互いに一撃必殺の攻撃は、私と黒カンガルーのダブルノックアウトでミズモチさんが私を連れて高速で逃げてくれました。


 去り際に黒カンガルーが魔石に変わったのが見えたので、どうやら相打ち勝利できたようです。なぜか、顔を殴られて痛みがありましたが、達成感の中に快感があったのはなぜなのでしょうか?


 私はミズモチさんに運ばれながら意識を失いました。

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