第126話 化粧をしましょう

全ての毛を失ったことで、私はマスクをして目元が隠れるサングラスをかけて出社しました。かなり怪しいことは自覚しております。


気分は落ち込んでいましたが、胸元に入ったミズモチさんに癒して頂きながら、なんとか会社に辿り着くことができました。


「おはようございます」

「おはようござ!!!えっ?」


私が声をかけると、カオリさんが私の顔を見て驚かれました。


「そっ、その顔どうされたんですか?」

「えっと、冒険者になった副作用と言いますか…」


私はレベルが上がってスキルを習得しなかったため、全身ツルピカになったことをカオリさんに説明しました。


「そっ、それは……わかりました」


何をわかったのかわかりませんが、カオリさんは決意したような顔をされていました。その後にやってきた三島さんには大変驚かれました。

驚いた後に爆笑していたのは、三島さんなりのエールに思えます。


まぁ私など彼女もいなければ、仕事先と電話でのやりとりしかしません。

上司などはたまに来るだけですし、カオリさんが大丈夫だと言ってくれれば問題はなかったです。


冒険者としてはこちらの方が迫力があっていいかもしれませんね。


「ヒデオさん!」


ランチが終わり、お茶を飲みながらの休憩時間、カオリさんが決意した瞳で私に話しかけてきました。


「はい?」

「お化粧をしましょう」

「えっ?お化粧ですか?」

「はい。お化粧といっても目元だけです。私は自分でやっていたのでわかるのですが、付けまつ毛と、眉を描くだけで随分と印象は変わります」


そう言ってカオリさんがつけているという、付けまつ毛と眉を書くペンを貸していただきました。

鏡の前に座らされて、カオリさんの指導を受けます。


「私は別に」

「そうですね。ヒデオさんは自分の顔を見る訳ではありません。ですが、街中でスキンヘッドに眉なしの高身長男性が歩いてきたらどう思います?」


カオリさんの例えに、私は怖いと思いました。

その筋の方かなって?考えてしまいます。

恐怖耐性を得たので、実際にあっても怖くはないと思います。

ですが、もしもそんな人が居れば子供や女性は、怖いと思うはずです。

まだ、感性は持ち合わせています。


「怖いですね」

「でしょ。それは他の人への配慮です」

「なるほど!配慮は大切ですね」


私は、眉を書くことから始めましたが、これがなかなかに難しい。


「そんなに太くしたらダメです。左右差も考えてください」


カオリさんが熱心に教えてくれるので、一時間ほどで、なんとか眉が完成しました。


「ミズモチさんいかがですか?」


《ヒデ〜イケてる〜》


やりました。ミズモチさんに褒めていただきました。


「まだです。次は上瞼に付けまつ毛をつけていきますよ」


そう言ってカオリさんが使う付けまつ毛の中では、一番短いという物をチョイスしてもらってつけて見ますが、これも難しいです。

上手く付けることができなくて、曲がったり浮いたりしてしまうと変に見えます。


「最初なのでこんなもですかね?」


さらに30分をかけてなんとか付けまつ毛を付けることができました。


鏡の中には昨日までの私の姿が映し出されています。


昨日までは、こんなことをしなくてもよかったのに……


「もしも、ヒデオさんが良ければ、眉を刺青として入れてもらうこともできます。まつ毛は無理かもしれませんが、眉毛は誤魔化し方がありますから。頑張りましょう」

「はい!何から何までありがとうございます!」


カオリさんがこんなにも頼もしく感じるとは、ありがたいです。

今までは、カオリさんのメイクをもっと薄くしたらいいのにと思っていました。化粧をするのに、これだけの手間と時間がかかる苦労を知って、どれだけの思いを持ってカオリさんが化粧をしているのか考えていませんでした。


「最初は慣れないと思います。もし、良ければ私がお手伝いできることはお手伝いしますので、もっと頼ってください!」


カオリさんは本当に良い人です。

全身から毛がなくなった私を見ても怖がるのではなく。

むしろ、力になろうとしてくれる。

良い人に出会えて嬉しいです。


「今週は、木曜日に祝日もあります。もし良ければ一緒に化粧道具などを買いに行きませんか?」

「えっ?良いんですか?」

「もちろんです。初めて行っても何を買えば良いのかわからないでしょうから」

「はい!助かります。今度こそ、何か食事をご馳走させてください!」


映画の時は食事までいけなかった。

化粧品のお礼が、食事だけなのは申しわけありませんが、何も思いつかない自分が恨めしいです。


「ふふ、はい。約束です」


これはカオリさんと2度目のデートを約束できたと言うことでしょうか?


「どちらに行かれるのですか?」

「そうですね。男性でも化粧品が買いやすい場所が良いと思いますので、ドンキで良いかなって思います。色々置いていて面白いですからね」

「わかりました。こんな私ですが、どうかよろしくお願いします」

「ヒデオさんは何も変わっていませんよ。それにこうして私の得意分野でお助けできるのが嬉しいです!任せてください」


胸の前で握り拳をするカオリさんのポーズは可愛いです。

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