第127話 ご近所ダンジョン 1

レベル11になってKを失いました。

もうそれは仕方がないので諦めました。


気持ちを切り替えるためにもダンジョンに行こうと思うのですが、平日はどうしても時間が無く。平日の夜にミズモチさんの魔力補給をするために、ご近所ダンジョンさんへ訪れました。


「ふぅ~最近は、他のダンジョンに行くことも多かったので、ここに来るのが随分と減ってしまいましたね」


スーパーカブさんに乗って到着したご近所ダンジョンさん。

ここに来るのは、バレンタイン以来です。一週間ほど来れていませんでした。

ミズモチさんと出会った頃は、週に二度は来ていたはずなのに不思議ですね。


「失礼します。今日は手土産はないのですが、ミズモチさんの魔力回復をさせて頂きます」


一応、挨拶として声をかけてみました。

返事はなく、誰も居られません。


何度か白鬼乙女さんと遭遇しているので、本日も会えるかと思いました。

ボス部屋の前まで、何事もなく到着しました。


「私も、ミズモチさんも強くなってきたので、一応大丈夫ですかね?」


恐怖耐性(中)の効果なのか、夜のダンジョンでもそれほど恐いとは思いません。

ただ、警戒は緩める気はないので、歩いていると危機察知さんが反応します。


「久しぶりですね」


私は深呼吸をして危機察知さんに神経を向けます。


相手は一体のようです。


白鬼乙女さんでしょうか?そんな期待を持って、入り口近くの通路まで戻りました。

もし出会えたら、鬼人化のお礼を言おうと思います。

凄く強い力を授けてくれたおかげで、冒険者としては少し安心です。


入り口近くに辿りつくと、一匹の灰色オーガさんが立っておられました。

オーガやゴブリンさんたちは、出現しても腰巻き程度で。服を着ていないのが普通です。


ですが、現われた灰色オーガさんは、忍者の装束を纏っておられます。


「えっ?忍者オーガ?」


意味がわかりません。

ですが、衣装から推測して、私は声を出してしまいました。


「ニンニン!」


今まで「ぎぎぎぎ」としか聞こえていなかった言葉が、ハッキリとニンニンと聞こえます。これはもしや魔物言語初級が発達したのでしょうか?それでは本当に白鬼乙女さんと会話が出来る?


「ニンニン!」


こちらを視認した忍者オーガが動きを開始しました。

私も慌てて、迎撃の準備に入ります。


「ミズモチさん!」


『ゴハン!』


ミズモチさんが、私が指示を出す前に、してほしい動きをしてくれます。

どうやら念話さんが、意思疎通まで成長してくれているようです。


『アイスウォール』


氷の壁によって私と忍者オーガを遮断します。


「変身!」


私はミズモチさんが稼いでくれた時間で、鬼人化します。


「白金さん!」


私が名前を呼ぶと手元に現われてくれた白金さんで迎撃態勢を取りました。

私も随分と手慣れたものです。

戦闘準備が完了したところで、忍者オーガさんの姿を見失ってしまいます。


「どこに?」


私が声を発すると危機察知さんが発動して、背後に敵の存在を知らせます。

影に潜むように氷の壁をすり抜けた忍者オーガが突然現われました。


「なっ!」


今までの灰色ゴブリンや灰色オーガよりも明らか強い。

動きが全然違います。


「ミズモチさん!」


警戒を促すようにミズモチさんに声をかけました。

白金さんで、灰色オーガの攻撃を受け止めました。


「ライト!」


目くらましのために、私がライトを唱えれば顔面から光を発して忍者オーガを目つぶししました。


「ええええ!!!!今、頭じゃなくて顔から光が出ませんでしたか?」


『ヒデ~ピカピカ!!!』


目くらましを食らった忍者オーガを、ミズモチさんが横から体当たりをして吹き飛ばしてくれます。

それでも倒し切れていないのは、私たちのレベルよりも相手が強いからでしょうか?


「ミズモチさん合成魔法を」


『は~い』


こちらを警戒している忍者オーガを氷の檻へ閉じ込めます。


「アイスプリズン!」


氷と光の合成魔法に忍者オーガは戸惑った顔を見せます。


「新たな力に目覚めた私に出会ったのが運のつきだと思ってください。刺突!」


私が捉えたと思った瞬間…………忍者オーガの姿が消えてしまいました。


「なっ!」


そして、危機察知さんとは別の恐怖が私の背筋をなぞります。


『美味そうではあるが、足りぬ!』


それは、どこから聞こえてきたのか………


腹の底に響くような声であり、同時に心臓を鷲掴みにされるような恐怖を覚える。


『まだ、育てねば』


次に聞こえた声は、私の耳元で聞こえたような気がして、息をすることも忘れてしまいます。


すっと首筋に痛みが走れば、何か刃物で首を切られた痛みがしました。


『励めよ』


そう言われて、恐怖と危機察知さんが同時に警報を消しました。


「ハァ、ハァ、ハァ」


首筋に手を当てれば血が流れ落ちていました。

自身の治癒(小)さんのおかげですぐに治りましたが、味わった恐怖は大きかったです。


「私は、どこかで慢心していたようですね」


冒険者は………いえ、魔物は恐ろしい存在です。


「白鬼乙女さんに勝てるかも?などと考えてすみませんでした。また手土産をお持ちしますので、どうかお許しください」


私は、ご近所ダンジョンさんを出て入り口に向かって謝罪をしてから帰宅しました。

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