第114話 戦いの後始末

 ロープウェイへ乗り込んだ我々は心身共に疲れ切っていました。

 皆、疲労から口数が少なくなり元さんはイビキをかいていて、シズカさんから寝息が聞こえます。


 雪崩に飲まれて緊張の連続だったのでしょう。


 流石に、私も疲れて眠さが襲ってきます。


 ーーガタン!


 ロープウェイが到着して、誰も立ち上がることができないでいると扉が開かれました。


「ヒデオさん!!!!」


 扉が開かれて私の名を呼ばれます。

 顔を上げると、ハルカさんが涙を浮かべて私を見ていました。


「ハルカさん。どうして?」

「よかった!よかったなぁ無事で!」


 そう言ってハルカさんは私とミズモチさんをギュッと抱きしめてくださいました。


 ああ、たくさんの人たちに心配をかけてしまったのですね。

 そして、無事に帰ってくることが出来たのですね。



「増援部隊率いて応援に来てん。でも、ヒデオさんが上に向かったって聞いて、でも、下の調査もしなあかんくて、ホンマに心配してからね!」


 私が怒られている間に長さんや元さんも冒険者たちに質問攻めを受けています。


「下の救助は終わった。試験を受けた冒険者、監視をしてた冒険者。上で行方不明になったこの子以外はある程度発見されたよ」


 悲痛な顔をするハルカさん。

 不幸に見舞われた人もいたのでしょう。

 私がシズカさんを救えたのは奇跡だと思います。


「終わったから後はヒデオさんたちの救援やって、息巻いてたとこやってん」


 ハルカさんの後ろには、アカバくんやモモさんたちを外で待機しています。


「えっと、長さん?」

「すまない。阿部君。説明は任せてもいいかい?私は冒険者ギルドの処理を済ませたいんだ」

「わかりました」


 リーダーである長さんから頼まれたので頑張りましょう。


「ハルカさん。すみません」


 私は抱きしめてくれていたハルカさんに肩を借りてロープウェイを出ます。


「皆さん、上での戦いは終わりました」

「えっ?そうなん?」

「ビックブラックベアーの討伐完了です」


 私の宣言に冒険者たちは顔を見合わせ……


「「「「「「ウオォぉぉっぉぉぉぉお!!!!!」」」」」


 皆、勝利の歓喜をあげました。


「なんや、よかったやん! ホンマによかったなぁ」


 ハルカさんは、恋人を失った過去を持つ方です。

 だからこそ、ダンジョンで人が死ぬ意味を理解されています。

 この場でたくさん働いてくれたのが、その手から伝わってきます。


 手袋をつけていたはずの手は、戦いに赴くために外され、素肌は雪をかき分けたのでしょう霜焼けになって真っ赤になっていました。


「ハルカさん。もう大丈夫です。お疲れ様でした」


 だからこそ、私の言葉で安心できるならよかったです。


「シズカ!」


 コウガミさんがシズカさんの姿を見つけて抱きついています。

 ユウ君は抱きついてはいませんが、涙を浮かべて喜んでいます。


 本当によかった。若者たちを救うことができたことが嬉しいです。


「怪我人は搬送されたから、これでホンマに全部終わりなんやね」

「はい。皆さんお疲れ様でした」


 私はハルカさんの後ろに立っている冒険者さんたちへ向けて労いの言葉をかけました。

 もちろん、解散を宣言するのは長さんの仕事です。

 ですが、気持ちの安堵を得られるなら少しだけ早く言っても許されますよね。


 冒険者たちが散り散りになり、シズカさんがコウガミさんに連れられて病院に運ばれて行きました。


「阿部さん! 本当にありがとうございました」


 そう言ってユウ君が私に深々と頭を下げます。

 初めて会った時の彼は傲慢で、人の言うことを聞かない子でした。

 ですが、失敗や成功を重ねていくことで、彼も成長してくれました。


「いえいえ、本当にシズカさんが無事でよかったです」

「俺、準備したつもりでした。でも、想定外のことが起きたら何もできなくて、やっぱり俺はダメなやつです」


 それぞれに帰り支度をしていく中で、ユウくんは肩を落として自信を失っています。若者らしい無鉄砲な彼の良さが失われてしまっているようで残念ですね。


 物事には、良い面と悪い面が存在します。


 最初は悪い面が強く出ていましたが、最近のユウ君は良い面がたくさん現れるようになりました。


「ユウ君。冒険とはそう言うものではないですか?」

「えっ?」

「私たち冒険者は、何が起こるのかわからないダンジョンへ挑戦しています。常に想定外のことばかりが起きてしまうのです。想定外のことに対して対処する準備をしていても危険なことがある仕事です。国もそれを認めて危険手当をたくさん出してくれています。それを怖いと思うのなら、冒険者をやめてしまいなさい」


 少しキツい言い方をしているのはわかっています。

 彼は無鉄砲で注意力に欠けるところがあります。


 ですから、これは覚悟を問う言葉です。


「お、俺!それでもなりたいんです。冒険者に!!阿部さんや他の人たちみたいになりたいって、今は本気で思えています」


 ですが、無鉄砲とは時に無限の可能性を引き出すものです。


「でしたら、学ぶしかないですね」

「学ぶ?」

「はい。ここにはたくさんの経験豊富な冒険者がいます」


 談笑している冒険者たちを私とユウ君は見渡します。


「彼らは、私やユウ君が経験していない危機を乗り越えておられます。まだいったことのないダンジョンに彼らは挑み経験を得ている。どんな準備をしたらいいのか?何を注意するのか?どうすれば上手くいのか?先人から学ぶとは、彼らの経験を教えて頂くと言うことです。背中を見て、言葉を聞いて学びなさい」


 ユウ君の瞳には、何が映りますか?私は君が成長する姿が見えますよ。


「人が成長するためには時に素直なことが大事であるのです。素直に聞いて、他者と言葉を重ね、自分に合った冒険者スタイルを模索してください。正解なんて言うものは、自分の中にしかありません。私は冒険者としては未熟です。だから君にかけてあげられる言葉一つだけです。頑張りなさい」


 どうして、ユウ君には説教のような言葉ばかり言ってしまうんでしょうね。


「はい!ありがとうございました!!俺、勉強してきます!!!」


 ユウ君は礼を述べて、素直に私の言葉を聞いてくれました。


 本当に良い子ですね。


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