第96話 家庭料理 前半

三日間の有給を取っていますので、本日はユイさんのインフォメーションにやってきました。

ユイさんに冒険者カードを渡して、B級冒険者への更新してもらいます。


「更新完了です。ヒデオさんは凄いですね!半年ほどでB級冒険者へ昇格してしまうんですから!おめでとうございます」

「ありがとうございます」


C級のときと同じように素早く対応していただきました。


「B級からは、B級ダンジョンへ入ることが出来るようになります。

報酬もC級よりも多くなります。

ここからは冒険者として求められるスキルも高くなるので、十分に注意が必要です」


C級へ昇格した時よりも、注意事項に対して念を押すように説明をしてくれました。


「今回は冒険者ギルドの不手際でトレントツリーが出没したそうですね。

申し訳ありません」

「ユイさんが悪いわけではないので気にしないでください。

それに冒険者同士で協力して倒すことができましたので、仲間の大切さを知ることができました」

「そうなんですか?!それではヒデオさんもパーティーを組もうと思ったんですか?」

「いえいえ、あくまで私はミズモチさんの食費を稼げれば問題ありません。

パーティーなどと、そこまでは考えていませんよ。

会社で働くのを優先するつもりです」

「そうですか、あっそう言えばトレントツリーの報酬を冒険者カードへ入金しておきました」

「ありがとうございます」


アカバ君たちが魔石を譲ってくれたので、30万円が入金されていました。

給料の1.5倍が試験を受けただけで稼げてしまいました。

皆さんに協力してもらったので、なんだか申し訳ないですね。


「ヒデオさん」

「はい?」

「昇格祝いはされるんですか?」

「あっ…………昨日、ミズモチさんと俵ハンバーグを食べに行きました」

「そうですか、ではまだ誰からも祝っては貰ってないんですよね?」

「えっはい、それはまだです」

「では、今回も私といきませんか?」

「へっ?ユイさんとですか、いいのでしょうか?」

「もちろんです。今日は定時で上がりなので夕方に待ち合わせをしましょう」


ユイさんは本当にいい人ですね。

私が昇格するたびにお祝いをしてくれるなんて…………


「嬉しいです。喜んで」

「ふふ、それでは最近カリンに教えて貰った美味しいお店があるんです。

連れて行きますので、楽しみにしていてください!」

「それは楽しみですね。ありがとうございます」


私は自宅へ戻って、ユイさんとお出かけする準備をしました。

今回はB級試験に参加するために休みを使ってしまいました。

そのため買い物や日用品を購入するためにスーパーに向かいます。

大量の肉を買っていると見知った顔を見つけました。


「矢場沢さん。お疲れ様です」

「あっ、阿部さんお疲れ様です。

昨日は試験と言われていましたが、いかがでした?」

「ふふふ、合格出来ました!」

「うわ~凄いじゃないですか?大変だったんですよね?」

「はい。木の魔物がたくさん出てきて、最後に大きな魔物が」


矢場沢さんは私が身振り手振りで、大げさに伝えると楽しそうに笑ってくれました。


「合格祝いしないとですね」

「えっ?」

「明日のランチは少しだけ豪華にしておきます」

「いつもありがとうございます!!!矢場沢さんのランチが人生一番の楽しみです」

「大げさですよ、阿部さん。明日は気合いを入れますので、楽しみにしていてください」

「はい!」


嬉しいですね。

明日が本当に楽しみです。


「今日は姉の手伝いにいかないといけないので、すみません」

「あれ?矢場沢さんって、お姉さんがいたんですか?」

「いえ、姉と言っても従姉妹なんです。

少し歳は離れているんですけど、色々と相談に乗って貰っているのでたまに手伝いをしていて」

「そうだったですね。

副業頑張ってください」

「ふふ、はい。失礼します」


買い物を終えて家に帰ると、いつの間にか約束の時間が迫っていました。

私は着替えをして、ミズモチさんにお留守番をお願いします。


「ミズモチさん。本日は、大量の肉を置いてありますので、楽しんでくださいね」


ユイさんとのお出かけが決まったので、ミズモチさん用の夕食を用意しました。

今日はお肉を柔らかくするために圧力鍋で煮込んだお鍋を作りました。


「美味しいそうな良い匂いがしていますね。ミズモチさん行って参ります」


【ミズモチさん】《いってら~》


私はミズモチさんに見送られて、ユイさんからメールが来た千ベロへと向かいました。


「ユイさんと千ベロとは、なんだかミスマッチですね」

「最近カリンに教えて貰った小料理屋さんが、凄く美味しかったんです」

「へぇ~偶然ですね。

私も最近、千ベロで飲んだんですが、そのときに入った小料理屋さんが、とても美味しかったので印象的です」


ユイさんが案内してくれた店は私がよく知る小料理屋さんでした。

ミヤコさんが、割烹着姿で営業されているお店です。


「おや!?私の知っている店と同じですね」

「えっ?そうなんですか?凄い偶然ですね」


ユイさんと笑い合いながら、ミヤコさんの店へと入りました。


「いらっしゃい。予約の人ですね?」


そういって私を出迎えてくれたのは矢場沢さんでした。


「えっ?」

「あっ!」

「うん?どうかしましたか?」


事情を知らないユイさんが不思議そうな顔をしています。


「いっ、いらっしゃいませ」

「はい。いらっしゃいました」


会社や見慣れた場所以外で、矢場沢さんに会って緊張してしまいます。


「あら~お客さん。また来てくれたんですね~」


店の奥からミヤコさんが出てきました。


「予約した!水野です」

「はいはいって、お客さんたちって知り会いでしたの?凄い偶然ですね」

「あっ、あのミヤコ姉さん」

「うん?どうしたの、カオリちゃん?」

「わっ私」

「あの、矢場沢さん。もしも、ご気分が悪いなら私たちは帰りますが?」


普段とは違う仕事をしている風景を、知り会いに見られるのって恥ずかしく感じることがありますよね。


嫌がる方もいます。


「あっ、そうじゃなくて」

「本日は、冒険者ギルドのユイさんが、昇級祝いをしてくれると言うのでこちらにお邪魔になったんです」

「お祝い?」

「はい。いつも専属で私に冒険者のことを教えてくれているありがたい方です」

「こらヒデオさん、手を合わせるのは止めて、凄く拝まれている感覚が強いから」


私が知り会いだと認めると、矢場沢さん以外はなんとなく状況を察してくれたようです。


「わっ、私は大丈夫です。ゆっくりとお祝いをしてもらってください」


奥へと下がってしまう矢場沢さんは、やっぱり恥ずかしかったのでしょうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る