第94話 トレントの森 終

アカバ君が、剣士(ソードマン)

アオヤギ君が、弓使い(アーチャー)

キクチ君が、盾使い(タンク)


戦闘特化パーティー三人がトレントツリーを引きつけてくれるので、私とミズモチさんは魔法に集中できます。


「アベさん!魔法を頼む!」


アカバ君の声で私はミズモチさんを見ます。


「ミズモチさん、アイスカッター!!!」


トレントツリーは大きく枝も多いのですが、動きが鈍くて魔法も攻撃も当たりやすいです。

ただ、身体は硬くたまに暴れるような攻撃をしてくるので、注意していなければ大ダメージを受けてしまいます。


「皆さん!枝が半分まで減りましたよ!頑張っていきましょう!!!」


「「「おう!!!」」」


【ミズモチさん】《ヒデ~ゴハン~》


厄介なことに、トレントツリーと戦っていると他のトレントが寄ってきます。


「こっちは気にしないで!ボスだけに集中して!!!」


背後からまたも別のパーティーの声がしました。

女性パーティーがトレント討伐をしてくれています。


トレントツリーはこの辺りのボスなのですね。


ふぅ~ボス戦はいばらきダンジョン以来です。

B級昇格試験にしては、なかなかにハードな課題ですね。


「ミズモチさん。戻って」


【ミズモチさん】《ヒデ~》


「回復をしてください。私が、アベフラッシュビ~~~~ム」


トレントツリーには私とミズモチさんの魔法攻撃が一番効果があるようです。


それもミズモチさんのアイスで冷やした後に、私のフラッシュで攻撃することで、大ダメージを与えることが出来るようです。


「アベさんもう少しだ!」


トレントツリーの枝も三分の一まで数を減らしました。


「ヤバい!」


ミズモチさんが魔力を回復して、アカバ君の声で油断してしまいました。

トレントツリーが暴れ出してアオヤギ君とキクチ君がトレントツリーの枝に吹き飛ばされてしまいました。


「くっ!アベさん!俺が引きつける。なんとか攻撃を頼む」


ソードマンのアカバ君だけでは、明らかにトレントツリーの枝を捌き切れていません。


「ミズモチさん。魔力はいかがですか?」


【ミズモチさん】《ヒデ~ゴハン~タベタ~イ》


「そうですね。お腹が空いてきましたね。それに大分、日も上がってきました」


光が差し込んで、アオヤギ君とキクチ君が起き上がっている姿が見えます。


遠いのですぐには参戦出来ませんが、生きていて本当によかった。


「ミズモチさん!魔力全開でいきましょう」


【ミズモチさん】《ヒデ~ヨロ~》


「はい!」


私はミズモチさんを抱き上げました。


魔法には手を必要としません。


私の額とミズモチさんのボディーから魔力が形を成していきます。


「アベフラッシュメガトンバズーカ!!!アイスジャベリン!!!」


私の頭全体が光り出して熱を生み出しました。


そんな私の目の前に巨大な氷の槍が完成していきます。


「放て!!!」


私の頭部全体から光の大砲が撃ち出され、トレントツリーに負けぬほどの氷の塊が飛んでいきました。


「うおっ!マジかよ!」


アカバ君の声が聞こえましたが、私は全てを出し切りました………


………


………………


……………………


「ウオォ!!!!!!!!!」


アカバ君の歓声が聞こえてきます。


一晩中寝ずに戦って、魔力も使い果たしてしまいました。


これはヤバい奴ですね。


「ミズモチさん。少し寝ます」


【ミズモチさん】《ヒデ~オヤスミ~》


私はそのまま意識を手放しました。


次に目を覚ましたとき、温かい場所に私はいました。


「おっ!アベさん目が覚めたか?」

「えっ?」


身体を起こすと、私を囲むように大勢のパーティーがそれぞれのキャンプを張っておられていました。

私の横にはミズモチさんといくつもの風よけが置かれています。


「アカバ君?」

「はい。アベさん、俺たち助かりました!!!」

「へっ?」


アカバ君の声に周りの冒険者たちも私が目を覚ましたことに気付いたようです。


ゾロゾロと集まってきました。


これだけの人数が集まるなんて、なんだか怖いですね。

私、何かしましたでしょうか?


「オジサン!さっきの魔法凄かったね!」


先ほど背中を守るように戦ってくれていた女性パーティーの方でした。


「えっ?ありがとうございます。ミズモチさんのおかげですよ」

「そうそう、このおチビが、アベさんに触らせようとしないから、なかなか近づけなかったんすよ」

「えっ?ミズモチさんが?」


私が眠ってしまったので守ってくれたのですか?

皆さんも、私が寝てしまったので私を守るようにテントで囲んで?


「こっ、これはすいません。私のような」

「おいおい何言ってんだよ。アベさんは英雄だぜ」

「へっ?」

「そうよ。オジサンが魔法でアイツを倒してくれなかったら、試験もメチャクチャだったんだから」


アカバ君と女性が向ける視線を見れば、巨大な魔石と大量のトレント木材が積み上がっておりました。


「えええ!!なんですあれ?」

「もちろん、アベさんが倒したトレントツリーのドロップ品だ。スゲーだろ?」

「えええ?!!でも、私が一人で倒したわけではありませんよ?」


それにあれだけの木材を持ち帰るなんてできません。


「いやいや、アベさんが一人で、いや、おチビと一緒に戦ってくれなかったら俺たちは逃げることしかできなかった。あんたは誰よりも勇敢だったぜ」

「そうそう、オジサンが戦う姿を見て私たちも逃げちゃダメだって思えたんだから。

ボス戦の手伝いをしたいって戻ってきたんだからね!」


二人の後ろでは、他の冒険者たちも笑顔で私を見ていました。


試験を受けている間はバラバラに行動していた人たちが、私のために一致団結してくれたんだと思うと少し胸が熱くなります。


最近、涙腺が緩いので…………


「皆さんありがとうございます!!!試験はどうなのかわかりませんが、戦利品は皆さんで分け合えたら嬉しいです。ここに居る人たちが寝ている私を守ってくれたのも事実です」


アカバ君と、女性パーティーのリーダーさん苦笑いを浮かべます。


「わかったよ。アベさん。ありがたく分けさせて貰う。だけど、トレントツリーの魔石はアベさんの物だ。それと、ドロップ品はキッチリと等分しよう」


そう言って握手を求めてくれるアカバ君はリーダーぽくって素敵なイケメンでした。


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