第61話 鑑定
昨晩は、オーガとの戦闘で疲れていたため、自宅に帰ってシャワーを浴びるとすぐに寝付いてしまいました。
命のやりとりは異常なほどに、身体と心への負担をかけることがわかりました。
翌日は、全身が筋肉痛で動くのが辛かったです。
自身の回復(極小)が発動しているはずなのに、それでも残るほどの痛みは、それほど筋肉を酷使していたのですね。これほどの痛みは久しぶりです。
ですが、本日は身体が痛くても湊さんへプレゼントする物を考えなければいけません。
そのためにも冒険者ギルドへ出向く必要があります。
「カリンさん。居られますか?」
「はいよ。おっ、阿部さんじゃん」
「この間はありがとうございました」
私はサークレットを付けたまま来たので、カリンさんにお礼を言いました。
「良いって事よ。それにしても似合うな」
ニヤニヤとしてこちらを見ています。
「そうですか?私も気に入っています」
「なんだよ!からかっているのに」
「ふふ、言ってしまったらダメでしょ」
「はっ!やられたね。やっぱり阿部さんは年上だよ。それで?今日も何か持ってきたのかい?」
私はポケットから、昨日拾ったドロップ品を出しました。
「ネックレス?珍しいね…… なんだいこれ?」
鑑定をしてくれたカリンさんが怪訝そうな顔でこちらを見る。
「ドロップ品です」
「まぁ、それは分かるよ。今まで持ってきたどの品よりも良質だからね。ただ、これだけで100万はする品だよ」
100万!!!!
私はあまりの衝撃で固まってしまいました。
「守護のネックレス(品質 良質)だね。受けるダメージを多少こいつが代わりに受けてくれるんだ。受けるダメージ量が決まっているけど、良質だから良い物だよ。B級ダンジョンでも滅多にお目にかかれない品物だ。阿部さん、あんた何をしてるんだい?」
A級ダンジョンに行っていることを、素直に言ってしまっても問題ないと思います。
水野さんから、カリンさんが心配していることも聞いています。
「それは」
ーーバン!
「おい、カリンの嬢ちゃん!ありったけの回復薬を用意してくれ」
私が伝えようとしたところで、長さんがショップに飛び込んできました。
「長さん?」
「うん?ああ、阿部君だったか?」
「はい」
「ちょうどいい、あんたも来てくれ!ゴブリンの住処で、モンスターパニックだ!」
モンスターパニックは、モンスターがダンジョンから溢れ出すことを言います。
ダンジョンが誕生してから何度か、災害扱いとしてニュースで見たことがあります。
まさか、こんな日に起きるなんて!
「阿部さん、これを装備していきな。それと抱えて行けるだけ回復薬も持っていってくれ!」
カリンさん状況を理解してすぐに頭を切り替えた。
指示を出しながら、守護のネックレスを首に付けてくれます。更に大量の回復薬を渡されました。
「少しでも、人を助けてやっておくれ」
「分かりました。行ってきます」
私は長さんと共にゴブリンの住処へと向かいました。
そこには大量のゴブリンが街に降りてきて建物を破壊している光景が広がっていました。
「阿部さん。死ぬなよ」
「無理はしません」
大量のゴブリンたちと、それに対峙する冒険者たち、私は傷ついた冒険者を探しながらミズモチさんに護衛を頼みます。
「大丈夫ですか?」
察知さんを駆使して、ゴブリンの位置を確認しながら、回復薬を配ります。あまりにもゴブリンが多いせいで、対応が追いついていません。
「第2陣のお出ましだ!!」
誰の叫びだったのかわかりませんが、ゴブリンが追加されました。回復薬を配り終えた私はミズモチさんと二人で、ゴブリン討伐に当たりました。
「ミズモチさん、行きますよ」
《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》
一匹一匹は強くはありませんが、数が多いだけで脅威です。ミズモチさん背中を守ってくれて、正面から受けるダメージを守護のネックレスのおかげでなんとか耐えることが出来ています。
ミズモチさんがいることが、心強いですね。
何時間戦っていたのでしょうか?
いつの間にか日が傾き、戦いが終わっていました。
ゴブリンは大量の魔石に変わって山を作っています。
「ふぅ〜なんとかなりましたね」
《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》
「よう、阿部さんあんたも生き残ったのか?」
そう言って現れた長さんは片目に大きな傷を作り、相方の元さんは足を折ったようでした。
「老いぼれは嫌だね。油断したよ」
そう言いながら、最前線で傷を負っても生き残ったお二人はやはりスゴイ先輩です。
「お二人ともギルドで回復魔法を受けてくださいね」
「おうよ。まだまだ引退はせんよ」
互いにやり遂げた達成感でつい、笑顔が浮かんできます。
ふと、ポケットのスマホが振動していることに気付いて取り出すと、画面に【湊】と表示されていました。
あっ!【湊】さん待ち合わせをしているのを忘れていました。
「湊さん」
「あっ!よかった。阿部さん無事なんですよね?」
どうやらゴブリンのモンスターパニックが起きたことを知っているようです。
「はい。私もミズモチさんも無事です。すみません。待ち合わせをしていたのに」
「私の事なんていいんです!!!阿部さんが無事なら本当に!!!」
湊さんは本当に良い人ですね。
こんなにも心配してくれるなんて……
「湊さん。こちらは一段落したので、もしよければ夜に時間を変更して頂けませんか? 一度帰ってシャワー浴びて来たいので」
「お疲れではありませんか?」
「私は大丈夫です。湊さんが良ければですが」
「……私、今日だけはワガママ言います、お待ちしています」
「はい。少しだけお待ちください」
私は長さんと元さんに別れを告げて家に向かってスーパーカブさんを走らせました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます