第60話 成人式のお祝い
高良君から聞いた結婚話は驚きでしたが、高良君が色々なことを真面目に考えるようになったことは喜ばしいことです。
何よりも、彼らの成人式が素晴らしい門出になるように、私もお祝いしたいですね。
高良君と別れて家にたどり着いたところで、湊さんからメッセージが来ました。
【湊】「阿部さん。私、明日は成人式なんです。少しの時間でいいので会えたりってしませんか?」
成人式の日に私に会いたいとは何か用事でしょうか?同級生たちと同窓会があったり、仲の良い友達と食事に行ったりすることが多いはずです。
少しだけでもいいと言うことですが…… 本当になんでしょうか?
【私】「成人、おめでとうございます!!!時間はいつでも大丈夫ですよ。明日は一日空いています」
まぁヒマな私ですからね。どんな時間でも問題ありません。
何か用事があるのでしたら、対応してみせましょう。
それよりも成人の祝いに、何かプレゼントを送れないでしょうか?高良君と鴻上さんへは結婚祝いを送りたいので、今回は湊さんへ何かプレゼントをしたいですね。
【湊】「ありがとうございます!!!それでは夕方にお時間を空けておいてくれると嬉しいです」
【私】「承知しました。それでは夕方は空けておきますので、待ち合わせ場所と時間をお願いします」
私は早速ネットで成人のお祝いと調べました。
女性へ送るのは、花やアクセサリーという項目が多く見られました。
男性ならば時計やボールペンなどの実用的な物が良いそうです。
やっぱり年頃の女性にプレゼントすると言うのは、私には難しいですね。
「ミズモチさん。何を送ればいいのかわかりませんね。どうすればいいと思いますか?」
《ミズモチさんはプルプルしながら、頂きますと言っています》
「何を食べるんですか?えっ、今からご近所ダンジョンに行きたい?もう夜も遅いですよ。それに…… そうですね。ここで考えていても、私には良い考えが浮かびそうにありませんね。行きましょうか」
まだ日を越えるには少し時間があります。
ご近所ダンジョンさんは相変わらずの静けさです。
夜が深いせいか、少し不気味に見えました。
「行きましょう」
最近は、中へ入ることを躊躇っていて入り口に入るだけでした。
今日は、柳先生に技を習い、オークを倒したことで自信も出来ました。
中へ進む決心をしました。
ボス部屋がある扉の前に来ると、一匹のオーガが居ます。入った時から察知さんが教えてくれています。
それはこの間いたオーガと同じで、金棒を持つ小柄なオーガです。
「ミズモチさん。ここは私に任せていただけますか?」
《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》
「ありがとうございます!!!何かあったときはお助けをお願いしますね」
《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》
私は自ら望んで一歩前へ出ました。
どうしてなんでしょうね?他のダンジョンに行っても、恐怖を感じることはほとんどありません。
ですが、ご近所ダンジョンさんで対峙する魔物は、恐怖耐性(小)を持っていても恐いのです。
「いきます」
私は柳先生に習った通り、杖の端と端を持つ構えを取ります。
「GYA」
私の接近に対して、オーガは金棒を肩に担いで待ち構える姿勢を見せます。
「ふぅ~この間は、私はあなたにビビってしまいました。ですが、ミズモチさんの相棒として、あなたに負けるわけにはいきません」
オークたちとの戦闘で、杖の新たな可能性には気付くことが出来ました。
「プッシュ!」
杖の先を隠したプッシュは、今までと違って出所を相手に悟らせることなく、放つことが出来きます。
「躱しましたね。フック」
相手が杖を躱せば、引く力を利用してフックが相手を絡め取ります。
「ギギギ!!!」
ゴブリンよりも力が強いです。
意表をつけたので、報復はありませんでした。
ただ、倒すことも出来ませんね。
「GYAA!!!」
怒りを表す、オーガ。
「ダウン」
突き出された足の甲へダウンを突き打ってダメージを与えます。
「ふぅ」
一度も油断ができない極限状態です。
オーガは足の甲へ受けた傷みで金棒を振り回しています。私はタイミングを見計らい、金棒を押し流すように振った瞬間を狙って、黒杖さんで金棒を払って勢いを後押しします。
オーガが振り回されてバランスを崩したところで、コメカミと顎へ二連撃を放ってダメージを蓄積させました。
「ハァハァ」
緊張状態は長くは続けられませんね。
尋常ではない汗と、数秒しか経っていないはずなのに息が切れてしまいます。
「グルル」
叫び声から唸り声に変わったオーガは獰猛な瞳を私に向けて、金棒をしっかりと構えました。
次で決着の時だと理解できました。
私は一撃でも受ければ、ひとたまりもありません。
オーガも蓄積したダメージによって、そろそろ限界が近いように感じます。
「GYA!!!」
叫び声と共に金棒を振ったオーガに私は黒杖さんで受け流しを仕掛けて、顔面に黒杖さんを突き刺します。
「プッシュ!」
顔面に放った黒杖さんを、スキルを使ってさらに突き出してトドメを刺しました。
「ハァハァハァ」
今までの中で一番長い戦闘時間でした。
私は息を切らして座り込んでしまました。
命をかけたやりとりでしたね。
こんな経験をすることになるなど、今まで生きてきて考えたこともありませんでした。
……ただ、私の心には達成感があり、オーガが魔石に変わった後には、武器では無い物が落ちていることに気付きました。
ドロップ品は、魔物が持っている装備品が多いのですが、今回は別の物です。
「これはなんでしょうね?鑑定なんていうスキルは持っていないので、カリンさんに見てもらうしかありませんね。ハァ~命をかけたやりとりは……しんどいですね」
ミズモチさんが近づいてきて、飛び跳ねています。
「ふふ、勝利を喜んでくれているのですか?ありがとうございます」
ミズモチさんに勝利を祝福され、しばらくボス部屋の前で休息を取ってから自宅へ帰りました。
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