第48話 いばらき童子ダンジョン 終

梅田さんが発した声で、目の前に現われた黒く太く大きい鬼の正体がいばらぎ童子だと知りました。


てっきり赤鬼さんだと思っていたので、黒くて太っちょの鬼さんはイメージと違いますね。

目の前にしても、恐いのですが、なぜか恐くありませんね。


「どっ、どうしてこいつが!!!B級の魔物なんてどうすることも」


怯えて座り込んだ梅田さん。魔力を使いきり、ここまで逃げてきて絶望が訪れたのかもしれません。


「ミズモチさん」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「どうしてでしょうね?ご近所ダンジョンさんに現われたゴブリンの方が恐いと思うのは?」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「やっぱりミズモチさんもですか?ハハ、不思議ですね。Bランクなんて凄い魔物のはずなのに、どうしてしまったのでしょうね?」


《ミズモチさんはプルプルしながら、何が?と言っています》


「ミズモチさんと二人なら、負ける気がしませんよ」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「それでは……行きましょうか」

「まっ、待って、ダメ。あれはダメなの。絶対に戦っちゃダメ!推定レベル20なんだよ。阿部さんレベル5でしょ?無理なんだよ」

「……梅田さん。きっと……彼氏さんはあなたに言ったのではないでしょうか?」

「えっ?」

「やってみなくちゃわからないだろ、ってね」

「なっ!」


少しだけ梅田さんの彼氏さんが、何を考えていたのかわかったような気がします。


梅田さんは臆病な人なのでしょう。


だから、自殺をすると言いながら一人ではここに来れなかった。

騙そうとしたと言いながら、私を助けることばかりの行動をしていた。

道連れにすると言っていたのに、いざ命の危機になったとき私を止めようとしています。


だからこそ、彼氏さんは無茶をしてでも、挑戦することを優先した。成功させた姿を見せたかったのでしょうね。失敗してしまったのは残念です。

梅田さんは落ち込んで、迷って、こんなところまで来てしまいました。


「どうして?同じことを言うの?」

「梅田さん!あなたに見せてあげます。テイマーの力を」


彼氏さんと私では大きな違いがある。


「ミズモチさん」


彼氏さんは一人でした。ですが、私には頼れる相棒がいるのです。


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「いばらき童子よ。ここを通して頂きます」


腕を組んでとうせんぼしている黒鬼は、私の気迫が伝わったのか、獰猛な笑みを浮かべました。

鋭い牙が見せて、角と大きな身体が前屈みになります。


「ミズモチさん。ウォーターカッター!」


ミズモチさんから放たれた魔法を受けても、いばらき童子はかすり傷を負っただけです。それでも……


「傷をつけることができましたね。ミズモチさん。連続でお願いします」


ダンジョンの中では、魔物は自然に魔力を回復することが出来るので、私の魔力を消費するよりもミズモチさんに頑張ってもらう方が効果的です。


周りのオーガたちは、ボスに協力する気はないようです。


「少しずつですが、傷が増えていますね」


かすり傷でも、出血量が増えていくこと……そして、傷が出来たところへ、同じように魔法が当たれば傷が深くなっていきます。


「魔物たちはそんなことを考えはしないでしょうね」


強い冒険者であれば、一撃で倒す技や魔法を持っているのでしょう。

弱い冒険者でも大勢で少しずつ攻撃を当てていけばいつかは倒せることでしょう。


私とミズモチさんは二人で連携して、いばらき童子を攻撃します。


「かばう!鬼さんこちら!」


攻撃はミズモチさんにお願いして、ミズモチさんを攻撃するいばらき童子の意識を私に向けさせます。


私に向いたところで……「ライト!!!」もっとも魔力消費の少ないライトで目くらましをして、逃げるための時間を稼ぐ。


「ミズモチさん、攻撃を」


攻撃を続けていれば、ダメージは蓄積されていくことでしょう。


例えばRPGなら、ボスモンスターに攻撃1を続けても、いつ終わりが来るのかわからないと思うかもしれません。

ですが、アクションゲームのバ○○ハ○ードとかなら、ナイフ一本でボスをチマチマ攻撃して倒すことができますよね。


私、昔はゲーマーだったのです。


「私にとってのナイフはミズモチさんです」


いばらき童子が、イライラと私たちを睨みつけてジリジリと距離を開き始めました。


「逃げるのであればどうぞ!我々はダンジョンから脱出できれば勝ちです」


倒す必要はない。いばらき童子に引かせても勝ちだ。


「GYAA!!!」


いばらき童子が奇声を上げて跳躍する。


逃げた?そう思うと跳躍は短く、狙いを梅田さんに変えました。私が、かばうを使おうとして声を発する前に。


「大丈夫だから!」


梅田さんから大きな声がしました。

いばらき童子に恐怖しているはずなのに気丈に振る舞っておられます。


「あいつの気持ち……わかっていなかったのは私だったんだ。バカだって決めて……無謀なことばっかりしてるって……全部私が臆病だから……自殺とか考えるバカだから……バカは私だったんだ」


「GYAAA!!!!」

「うるさい!バニッシュ!」


少しだけ回復した魔力で、梅田さんは自らの存在を消してしまいました。


いばらき童子は、目の前で消失した梅田さんを探そうとしていますが、存在を消した梅田さんは私でも視覚に捉えることができません。


「ミズモチさん!」

「私も残りの魔力を使います。かばう!」


私がいばらき童子の意識を向けさせたことで、強制的にいばらき童子がこちらを見ました。


「ミズモチさん!ウォーターランス!」


太く鋭い槍がいばらき童子の腹部に突き刺さりました。

貫くことも穴を空けることもできません。

ですが、確実にダメージと言える攻撃です。


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!」


断末魔の叫びのような声を吐き出した、いばらき童子。


「今です」

「私を忘れるなよ」


いばらき童子の首筋にナイフで切り裂いた傷が現われて、血を吹き出しました。


梅田さん……ナイフ投げでも思いましたが、絶対強いですよね!!!臆病な性格を直したら素質あると思いますよ!!!


「阿部さん。トドメを」

「あっ、はい」


私は残りの魔力を乗せて……頭をいばらき童子へ向けました。


「ライトスピア!」


鋭く一転集中させた光の刃が、いばらき童子の胸に突き刺さりました。


ダメージを蓄積していたことでそれがトドメになりました。いばらき童子は巨大な魔石と、鬼の角になってしまいました。


私の脳内にはレベルアップ音が響き、無事に倒すことができた安堵で座り込みました


疲れましたね。





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