第45話 いばらき童子ダンジョン 2

梅田さんとダンジョンに向かう前に、両親から年賀状印刷を頼まれました。

和裁をしている両親は取引先や、昔からの付き合いがある人に年賀状を送るそうです。

宛名は未だに手書きを貫いています。


ですが、今年は裏面を印刷したいということで、お手伝いをしております。


「それで?どんな画像を使うのですか?」

「これやねんけど」


そう言ってスマホの画面に映し出された写真は、寝ている私の額に乗るミズモチさんの画像でした。


「なんや、鏡餅みたいで縁起良さそうやろ?みんなにも見せたろうと思って。あんたが帰ってくるの久しぶりやし、ミズモチさんが可愛いやろ?」


親とはいくつになっても子供を可愛く思ってくれるのですね。ありがたいことです。ですが、ちょっと恥ずかしいです。ミズモチさんと二人で鏡餅……まぁいいでしょう。


仕事仲間以外のお母さんの友人たちに送るそうなので承諾しました。


そう言えば、私は年賀状を久しく送っていませんね。

会社では取引先の人たちに向けては作成して送るのですが、それも一括で印刷して郵便に出してしまうので、個人的な年賀状は何年もしていません。


私、関東に仕事に行ってから関西の友達とは連絡することがなくなりました。

仕事仲間の三島さんや矢場沢さんのお宅は住所も知りません。あれ?考えても送る相手がいませんね。


「あんた手伝いは嬉しいけど、出かけるって言うてなかった?」


そう言えばいつの間にか時間が経っていました。

梅田さんが車でお待ちですね。


スマホと装備。それにミズモチさんをリュックに入れて家を飛び出しました。

ミズモチさんは、最近父さんの膝の上がお気に入りの様子で、テレビを見ている父さんの膝の上でプルプルしておられます。


「ミズモチさん今日もお願いしますね」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「おはようございます、梅田さん。お待たせしました」


本日の梅田さんは、スカジャンにジーパンという、なんともヤンキー姉さん的なコーディネートでした。

ショートの髪と、綺麗なお顔をされているので、凄く似合っています。


「あっ、阿部さん。おはようさん」

「それでは行きましょうか?」

「そやね。今日もお願いします」


梅田さんの車に揺られて30分ほどで、いばらき童子ダンジョンへ到着です。

昨日のことがあったので、本日は少し離れた場所に車を止めて歩くことにしました。


「昨日はレベル上げを優先したんやけど、今日は捜し物を優先させてもらうよ?」

「はい。任せてください。オーガはミズモチさんと二人で対応出来るところまで、こちらで引き受けます」

「おおきにな」


事情を聞いてしまった以上は、優先させるべきは梅田さんの用事です。

私たちは昨日とは別ルートからダンジョン攻略を開始しましたた。

山ダンジョンである、いばらぎ童子ダンジョンは、どこにオーガがいるのか察知さんの感覚を研ぎ澄ませなければ危険が多いのです。


「ふぅ~阿部さん凄いな」

「うん?どうかしましたか?」

「いや、昨日はビビってる言うてたのに、昨日の一回でコツを掴んだみたいやん。オーガを倒すことも出来てるし、レベル差を感じひんよ」


察知さんが働いてくれれば、どこにオーガがいるのか分かります。

後はミズモチさんの先制攻撃から、私がトドメを刺すか、もしくは私の不意打ちからのミズモチさんの体当たりでオーガを倒すことが出来ています。


ゴブリンほど弱くはないのですが、一匹や二匹なら先制攻撃が出来る私たちの方が優位ですね。


「私なりの戦い方が、なんとなく分かってきた気がしているんです」

「あ~あるよね。分かりかけてくるときって、でも過信はあかんよ」

「そうですね。恐怖耐性のおかげで少し自分の心が麻痺してしまっているのかもしれませんね」


梅田さんの指摘を受けて、気持ちを落ち着けることにしました。ゴブリンよりも上位の魔物を相手にしていることを忘れてはいけませんね。


「梅田さんは目的の遺品があるんですか?」

「うん。鍵やねん。あいつと私で共通の鍵を持ってるんやけど、二つ無いと開けられへんようになっている物やねん」


鍵とはまた古風で、難しい物ですね。

装備品とかでしたら、落ちていれば分かるかもしれませんが、鍵のような小さな物をこの山の中で探すのは至難の業ではないでしょうか?


「もちろん、みつからへんと思ってるよ。でも、みつかったら良いなって。だから阿部さんが付き合ってくれる間にみつからんかったら私も諦める」


梅田さんなりのケジメなのですね。


「頑張りましょう。安易にみつかりますよとは言えませんが、みつかるといいですね」

「ありがとうな」


それから歩き回り、オーガを倒すという時間が過ぎていきました。梅田さんも疲れとみつからない苛立ちが窺えるようになってきました。


「そろそろ今日も終わりにしましょうか?」

「……ごめん。阿部さんもう少しだけ」

「わかりました」


すでに日が沈み始めています。

暗くなると、危険度が増すのが山ダンジョンです。

帰り道の確保をしていると言っても、確実ではありません。


「あれ!」


梅田さんは声を出して走り出した。


向かう先には地面が光っておりました。


「それは?」

「宝箱、ダンジョンでたまに出現するんだって」


宝箱!!!ダンジョンの宝箱初めてみました!本当にあるんですね!


「もしかしたら!」


梅田さんが宝箱を開けようとして、察知さんが発動しました。


「梅田さん!オーガです!」


私の声に梅田さんも気付いたようです。


どうやら宝箱は獲物をおびき寄せるダンジョンの罠だったようですね。


私たちはオーガに囲まれていました。


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