第46話 いばらき童子ダンジョン 3
全方位、完全に道が見えません。
オーガの群れに囲まれた絶対絶命のピンチです。
「あっ、あったわ。阿部さん」
先ほどの宝箱の中から目的の品である鍵が出てきました。ダンジョン内で死んだ人の遺物が宝箱に入っているんですね。それがダンジョン側のやり方なのでしょうか?私は冒険者として初心者です。これは常識なのでしょうか?ダンジョンのことについて全然わかりません。
だからこそ本当に不思議な場所ですね。
「それはよかったですね」
「うん。ありがとう。ホンマにありがとうな」
何度もお礼を言ってくれるのは嬉しいのですが……オーガたちがこちらを見てますよ。そろそろ限界ではありませんか?
「ハァ~ホンマに……私な……ホンマは自殺しようと思っててん」
「えっ?」
「でもな……昨日……阿部さんに笑わしてもろて、みつからんくてもええかって思い始めててん」
「あっ、あの、梅田さん?」
じりじりとオーガたちが迫っていますよ。
嬉しいのは分かるのですが、出来れば状況を見てくれませんか?
「阿部さん。これはお礼しなあかんね」
物凄く良い笑顔をありがとうございます!!!
ですが
「「「「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!」」」」
オーガが怒っていますよ!!!
「なんやねん。邪魔すんなや!!!」
態度を豹変させた梅田さんが、懐から投げナイフをオーガたちの脳天めがけて投げつけました。えっ?凄い!そんなこと出来るなら最初からしてほしかったです。
「ミズモチさん!!!ウォーターカッター」
投げナイフを脳天に受けたオーガの動きが止まったことで、逃げるための道が開きました。
ミズモチさんにオーガたちを切り裂いてもらいます。
「プッシュ!プッシュ!プッシュ!」
私も全力でオーガを、猛プッシュです!
倒れたオーガはほったらかしにして、梅田さんの手を掴みました。
「いきますよ!」
「でも」
「いいから!」
私は梅田さんの手を引いて走り出しました。
「ミズモチさん!こっちへ!!!かばう!」
ミズモチさんを狙ったオーガの意識をこちらへ向けます。
オーガたちが一斉に私を見ました。
「ライトウイップ!!!」
こちらに向かってきたオーガには、光の鞭で応戦します。頭頂部から伸びた光の鞭は頭を振るだけでオーガたちを攻撃できます。
梅田さんを背中に庇って、ミズモチさんを救出しました。
「ミズモチさん!!!大技を行きますよ」
《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》
「ミズモチさん、ウォーターウェーブ」
ミズモチさんから発生した、巨大な津波がオーガたちを流してくれました。
「足止めは出来ましたね」
何匹かは倒せるかもしれませんが、全部を倒しきることは無理でしょう。それほどまでにオーガの数が多いのです。
「梅田さん。ミズモチさん。行きますよ!」
私は梅田さんの手を掴み、ミズモチさんを抱き上げて逃げました。
「「「「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!」」」」
お怒りのオーガたちから必死で逃げました。
正直、どこをどう走ったのかまったく覚えていません。
「なんとかオーガたちから逃げられましたね」
察知さんにオーガの反応がなくなったところで、私たちはやっと一息つくことが出来ました。よく映画などで、ゾンビから逃げるシーンを見ていましたが、実際に行うとこんなにも恐い体験だったのですね。
恐怖耐性(小)があっても恐い物は恐いです。
「ハァハァ……ねぇ、阿部さん。どうして私を助けたん?」
「えっ?それは当たり前では?」
「当たり前やないよ!私、自殺しようとしてたって言うたやん。阿部さんを道連れにしてたかもしれへんねんで!!」
「えっ!そうだったんですか?」
「そうやよ。私が死んで、阿部さんは巻き添えにされるとこやった……なのにどうして助けるんや!?」
涙を浮かべて情緒不安定になっている梅田さん。
彼女は大切な人を失ったのでしょう。
何かに縋りたくて、何かに頼りたくなった。
「鍵の話はウソですか?」
「ううん。ウソやない。これはあいつと私の約束の鍵や。二つの鍵を合わせて箱を空けたら婚約指輪が入っているはずやったんや」
ギュッと握り締める鍵はしっかりとした作りで、梅田さんにとって大切な思い出でだったのでしょう。
「そうですか。なら、絶対に帰らないといけませんね」
「なんで?なんでそんなに優しいん?受付のオバチャンにも怒らんし、私に騙されてたって聞いても怒らんし、阿部さんってなんなん?」
私よりも怒っている梅田さんは完全に泣き崩れていました。きっと大切な人を失ったときに彼女の心は、どこかおかしくなってしまったんでしょうね。
「私は何者でもありません。ただ、ミズモチさんを愛でるオジサンです」
「……ふっ、ふふ、やっぱり阿部さん面白いわ……ハァ~アホらし……なんで、死んだ奴のこと追いかけようとしてたんやろ?」
「それは……それだけ深い愛だったんでしょうね」
「クサッ!阿部さん、それはクサいで!」
「ええ。クサいです。だけど、死んだ人を追いたくなるほどに、深くてクサい愛情を梅田さんは持っていたんでしょうね。私は、未だに好きな人に出会えたことがないので羨ましいです」
「えっ?阿部さんいい歳してはるのに……ド……」
「はい。経験がありません」
あら?完全に引かれてしまいましたか?う~ん、伝えるって難しいですね。何が言いたいのか話をがまとまりません。
「ハァ~ごめん。ホンマにどうにかしてた。人に迷惑かけて、あいつを追いかけて……自暴自棄になって……そやのに……昨日も、今日も阿部さんといると冒険が楽しかった。あいつとの記憶が薄れて……自分だけ楽しんで……あいつ……私と結婚するために無茶してん。だから、いつも無茶するなって言ってたのに」
自分のために死んだ人がいる。
きっと、それは梅田さんとって、とても辛かったのですね。
「もうどうなってもいい。そう思って阿部さんを騙したるって……ごめんな。自分のことばっかりやった。それやのに阿部さんは面白くて……ハァ~こっちが騙されたわ」
座り込んで、木にもたれた梅田さんは私を見ました。
「阿部さんとミズモチさんを絶対に家に帰す。これは絶対の約束や」
「はい。生きて三人で戻りましょう」
私は手を差し出しました。
その手を梅田さんは握りしめて立ち上がってくれました。
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