第39話 お礼を言いましょう

「皆さん、今年も一年お疲れ様でした」


「「お疲れ様でした」」


 私が最後の挨拶をすると、三島さんと矢場沢さんが挨拶を返してくれます。


 順調に年末の仕事納めをすることが出来たので、今年は皆さんの顔色も良くて、気持ちよく年越しを迎えられそうです。


「さぁ~年末年始は飲むぞ~」


 三島さんはお酒が好きだそうです。

 早々に帰宅準備を終えて帰って行かれました。


「阿部さん」

「どうしました矢場沢さん?」

「もしよかったら、晩ご飯を一緒に食べに行きませんか?」

「いいですね。今日は遅くならない程度に」

「ふふ、そうですね。阿部さんにはいつも奢ってもらっているので、今日は私の行きつけで奢らせてください」

「おっ!それはありがたいですね」


 ボーナスを頂いたので、矢場沢さんの懐も温かいのかもしれませんね。

 奢られるのは気が引けるので、こっそり出してもいいですかね?今は彼女の顔を立てることにしましょう。

 それに、矢場沢さんがどんなお店に行くのか気になりますね。


「おや、ここは?」

「ご存じですか?」

「いえ、入ったことはないのですが、気になっていたんです」


 電車で家近くまで戻ってきた私たちは、駅近くにある焼き鳥屋さんに向かいました。


 L字のカウンター席しかないので、広い店内ではありません。若いご夫婦がされていて、焼き鳥屋さんにしてはオシャレな感じがしたので、オジサンは入りにくいなぁ~と思っていました。


「実は、私の友人がしているんです」

「ほう、ご友人のご夫婦がされているのですか? それはいいですね」


 矢場沢さんの友人にお会いできるのは不思議な気分ですね。店内に入ると予約席ということで二席が空けられておりました。

 L字カウンターの奥にある二席に私と矢場沢さんが座ります。


「阿部さん上着を」

「ありがとうございます」


 矢場沢さんがハンガーに上着を掛けてくれました。

 気遣いの出来る女性って素敵ですね。

 矢場沢さんは、性格は素敵なので、化粧を変えれば男性がいくらでも寄ってくると思うのですが…余計なお世話ですね。


「いらっしゃいませ。何を飲まれますか?」


 チャキチャキとした元気な女性からおしぼりを渡されました。小柄で可愛らしい女性で、焼き鳥屋さんの奥さんですかね?


「あっ、それではビールを」

「アルヒとビリンがありますが?」

「アルヒでお願いします」

「カオリちゃんも同じでいい?」

「うん」

「はいよ」


 名前で呼んでいるところを聞くと彼女が友人さんですね。


「あの子が、友人の平田悠里ヒラタユウリちゃんです」

「ふふ、言葉を交わさなくても分かり合っている感じが友人同士でいいですね」

「そうですか?私はこの辺りの出身なので、田舎がないのが寂しいです」

「そうだったんですね」

「阿部さんは田舎はどこですか?」

「私は大阪府なんです。枚方ひらかたってとこなんですがご存じですか?」

「すみません。わからないです」

「ですよね。他県の方だと読めない人もいるそうです」


 私は漢字を書いて見ませました。


「うわ~確かに枚方とはいいませんね」

「でしょ。でも、この話をすると感心されるので鉄板ネタです。まぁ他の県でも読めない市って多いですよね」


 他愛無い話をしても会話が途切れることなく話が出来るのは、日々のランチでお弁当を作ってもらって話をしているからですかね。

 もしかしたら、私とミズモチさんについて一番知っているのは矢場沢さんかもしれませんね。


「阿部さんって色々と面白い人だったんですね?」

「私、面白いですか? 初めて言われました」

「そうなんですか?」

「盛り上がっていますね」


 焼き鳥盛り合わせを持ってきてくれた平田さんに声をかけられました。


「もっ、もうユウリ。余計なこと言わないで!」

「え~楽しそうだったから」

「はい。矢場沢さんと話すのは楽しいです」

「おっ! 阿部さんノリがいいですね」

「もう、阿部さん。ユウリの悪ノリに付き合わなくてもいいです」


 おやおや、信じてもらえていないようですね。

 よし、ここは一ついつもの礼を述べておいた方がいいでしょう。今年も最後ですからね。


「いえ、私は本当に矢場沢さんと過ごす時間が楽しいと思っていますよ。


 矢場沢さんが職場で話しかけてくれた日から、職場の雰囲気が良くなりました。一緒にランチを取って、お弁当食べて、私は幸せを感じられるようになりました。

 今では、会社に行くのが凄く楽しくなっています。

 矢場沢には感謝してもしきれないほど、お礼を言いたいと思っていました。


 いつもありがとうございます!!!」


 私は少し照れくさくなって、最後は早口になってしまいました。


 あれ?私、変なこと言いましたか?二人から何も言葉が返ってきませんね。


「ねぇ、阿部さんってさ」

「ユウリ。ハウス!」

「はいはい。カオリも苦労するね」


 何やら二人で納得したように会話を終えられてしまいました。


「私、変なこと言いましたか?」

「いえ、何でもありません。お礼を言われるとは思っていなかっただけです」

「そうですか?いつも感謝しております。矢場沢さんが会社にいてくれてよかったです」


 その後は何故か矢場沢さんがあまり話してくれなかったので、焼き鳥盛りを食べて店を出ました。


「改めて今年一年お世話になりました」


 結局、ご馳走になってしまいました。


「こちらこそ、お世話になりました。来年もよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします。それでは良いお年を」


 矢場沢さんと別れて歩き出そうとして……


「阿部さん!」

「はい?」

「良いお年を!!!」

「はい。矢場沢さんも良いお年を」


 いや~本当によい年でしたね。


 そうだ。気分がいいので、今日はミズモチさんとご近所ダンジョンに行きましょう。

 スーパーカブさんに乗れないので、タクシーですが……まぁいいでしょう。


「ミズモチさん。今年はこのご近所ダンジョンにお世話になりましたからね。お礼を言っておきましょう」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「ふふ、鏡餅とお酒、お肉にミカンをお供えしてと」


 私はダンジョンの中にあるボス部屋の前に飾り付けをして、手を合わせました。


「今年一年お世話になりました。こちらのダンジョンのお陰でミズモチさんの魔力が補充出来て元気に過ごせています。私も色々大変な目に遭いましたが、来年もよろしくお願いします」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


「ふふ、ミズモチさんもお礼を言えましたか?それでは帰りましょう。少し早いですが、明日からは私の実家に行こうと思うので、ついてきてくださいね」


《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》


 さて、家族にミズモチさんをどうやって紹介しましょうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る