第19話 朝ちゅん

昨日はあまりにも楽しくて飲み過ぎてしましました。

肉は全てミズモチさんが食べてくれて、矢場沢さんが案外お酒に強くて、三人で賑やかな夕食を楽しかったです。


私も人恋しかったのですね……矢場沢さんがいることにテンションを上げすぎて……矢場沢さんがいつ帰ったのか覚えていません……


ふと……布団をどけようと手を払うと……ムニュ……ムニュ?何に当たったのでしょうか?ミズモチさん?私は自分が触れている物へ視線を向けました。


そこには男性物のシャツを着て、スエットパンツを履いた……ラフな格好の矢場沢さんが寝ていました……えっ?慌てて矢場沢さんに触れていた手を退けます。

まさかと思って、自分の服を確認しました……普通に着ています……


「う、うん?阿部さん?」


私の挙動がおかしかったからか、音が大きかったためか……矢場沢さんを起こしてしまいました。


「おっ、おはようございます。矢場沢さん」

「はい。おはようございます。すいません。洗面所借りますね」


えっ?なんか普通ですね……こういうときは慌てるのは女性の方かと思っていましたが……まぁきっと何もなかったのでしょうね。


洗面所を貸したので、私は布団を片付けて台所で顔を洗って、ホットコーヒーを入れました。


「すみません。コーヒーでも大丈夫ですか?」

「あっ、はい」


洗面所から戻ってきた矢場沢さんは……えっ?誰?ギャルメイクをしていない矢場沢さん……清楚系美女だったんですね……ギャップって怖いですね。私の心を盗まれてしまうところでした。


「くぅ~苦みが滲みる~ふぅ~美味しいですね」

「えっと、昨晩はたくさん飲みましたからね」

「そうですね。久しぶりに楽しかったです」

「それはよかったです」

「あっ、改めてご馳走様でした」


矢場沢さん……無防備過ぎませんか?朝とは言ってもラフな格好なんですよ!!!胸元が!胸が見えてしまいそうです!!私の理性を刺激しないでください!


「昨日は食べて、飲み過ぎました。少し胃が重いです」

「大丈夫ですか?胃調薬を飲まれますか?」


私は自身の回復(極小)のお陰なのか、二日酔いも胃が重いことも大丈夫です。


「いえいえ、阿部さんはお酒が強いんですね。昨日は凄かったです」


凄かった???昨日は私、何をしたんでしょうか!!!全然覚えていません!!!


「二人でどれだけ飲んだでしょう?私もお酒が好きなんですが、私より強い人に初めて会いました」


あっ、お酒の話ですか……ふぅ~焼肉を食べていた間は覚えているのですが、片付けをして、ツマミとお酒だけを飲み出してからの記憶が曖昧です。

秘蔵の焼酎である、魔王と二階堂が空になって転がっていますね。


「ミズモチさんもプルプルしながら、お酒を飲んでいましたが、大丈夫なんでしょうか?」


えっ?ミズモチさんもお酒を?


私はミズモチさんが寝ているダンボールを覗き込みました。


「ミズモチさん大丈夫ですか?」


《ミズモチさんはプルプルしています》


「おや?大丈夫そうですね」

「うわ~二人とも本当に強いんですね。しかも二日酔いも無さそう」

「はい。それは大丈夫です」

「うう、敗北感……ハァ~でも、なんだか新鮮です。よし!」


矢場沢さんは、たたんで置いてある自分の服を持ち上げて、洗面所へ入っていきました。


「矢場沢さんは何も気にしていないようなので、大丈夫なんでしょう?私、経験がありませんので、どうだったのか全くわかりません」


呆然としながら、コーヒーを飲んでいると……


「阿部さん。昨日借りた服ありがとうございます」


そう言って着替えを済ませた矢場沢さんに服を渡されました。

何でしょうか……女性って良い匂いがするんですね。


「阿部さん、男性なので使ってもいいですが、あまり汚してはダメですよ」


使う?使うって何にですか?何を汚すのですか?


「ふふ、阿部さん。今日は奢ってもらったので、今度は私が何か奢りますね。それでは失礼します」

「あっはい」


玄関で矢場沢さんを見送って、部屋へと戻ると嵐のような時間が終わったような気がします。

何でしょうか?化粧を落とした矢場沢さんは……小悪魔チックな魅力に溢れていて……掌の上で転がされている気がしてなりませんね……


「ハァ~思わぬ形で朝ちゅんしてしまいました。ミズモチさん、私は男になったのでしょうか?まったく覚えていないのです。使うって何に使うんでしょうか?」


私はそっと矢場沢さんが着ていた服を持ち上げて嗅いでみました。


「はっ!私はいったい何をしているのでしょうか……良い匂いがしますが、こういうことはダメです」


気分を変えるために大掃除をすることにしました。


洗濯をして、掃除機をかけて、窓をあけて、布団を干します。


もしも……また矢場沢さんが来てくれたときに汚い部屋なのは嫌ですからね。


そして、矢場沢さんの匂いがあるだけで……私の理性が崩壊しそうなので、空気の入れ替えです!!!


ふと、一通り片付けを終えてスマホを見ると……


【矢場沢】『昨日はご馳走様でした。今度お礼にお弁当を作って行こうと思います。お嫌いな物はありますか?』


手作り弁当!!!私……母親以外の手作り弁当は初めてです。

お弁当屋さんのオバチャンのお弁当しか食べたことしかありません!!!


【私】『気にしないでも大丈夫ですよ(^_^;私は嫌いな物はありません。なんでも美味しく食べられます!』


ガツガツしていたでしょうか?こういうメッセージはなんて返せばいいのか迷いますね。


【矢場沢】「はい。それでは私の好きな物を入れていきます。楽しみにしていてください。それではまた明日お仕事で」


【私】「はい。また明日。よろしくお願いします」


私は力が抜けて座り込んでしまいました。


何でしょうか?お昼なのですが、胸がいっぱいでお腹が空きませんね。




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