第20話 シチューはメイン?スープ

朝から私の心はソワソワとして…落ち着くことがありません。チラチラと矢場沢さんのことを見てしまいます。


矢場沢さんはいつも通りのギャルメイクで……あのとき見た素の顔の方がいいのにとか……つい余計なことを考えてしまいます。


「それじゃあ~私はお昼に行ってくるねぇ~」


そう言って三島さんが飛び出して行きました。

私はどうすればいいのかわからなくて座っていると、矢場沢さんが立ち上がりました。


「阿部さん。少し待っていてくださいね」

「はい!」


私、午前中の仕事がほとんど手に付きませんでした。

あっ、もちろん仕事は終わらせましたよ。

ですが、ミスがあるかもしれないので、後でチェックしなくては……


「お待たせしました」


水筒のような大きなお弁当箱の中から二つのご飯と、おかず、最後にスープジャー?からシチューが出てきました。


「凄い豪華ですね!オカズにシチュー?ですか?」

「あっ、阿部さんの家ではシチューをスープと思わない派ですか?」

「えっ?シチューがスープ?」

「ふふ、高校のときにシチュー論争ってしました。阿部さんはしたことないですか?」

「シチュー論争ってなんですか?」


美味しそうなお弁当に緊張していましたが、シチュー論争が気になります。


「まずは、食べてからにしましょう。せっかく暖めたので」

「はい!そっ、それでは頂きます」

「召し上がれ」


私はおかずの中から卵焼きを取りました。

綺麗に巻かれた出汁巻きは少し甘めで、出汁の味がしっかりしていました。


「ウマッ!」

「ふふ、喜んでもらえてよかったです。お弁当の卵焼きって美味しいですよね」


ほうれん草の胡麻和えも、アスパラベーコンも、唐揚げも最高に美味しいです!

矢場沢さん料理上手だったのですね!矢場沢さんと結婚する人が羨ましいです。


「ふふふ、阿部さんって意外に顔に出る人だったんですね。喜んでもらえてよかったです」

「顔に出てましたか?美味しい物を食べるときは、幸せな気持ちになりますから」


私はシチューを飲んでみました。

温かい食べ物ってほっこりとして良いですね。


「ふぅ~ご馳走様でした」


温かいお茶を入れて矢場沢さんにお渡しします。

焼肉のお礼と言うことでしたが、最高に幸せな気分を頂きましたので、せめてものお礼として洗い物だけはさせて頂きました。


「お粗末様でした。洗い物ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそこんなにも美味しい手作りご飯は久しぶりでした」

「喜んでもらえてよかったです」

「矢場沢さんは料理上手なんですね」

「上手かはわかりませんが、料理を作るのは好きなんです。またよかったら作ってきますね」

「それは嬉しいですが、負担にはなりたくないので、無理はしないでくださいね」


ミズモチさんが来る前は矢場沢さんとここまで楽しくお話が出来ると思っていなかったので、今では家も会社も本当に楽しいです。


「あっ、そう言えばシチュー論争ですが、阿部さんの家では、シチューはパンですか?それともご飯?」

「うちではシチューはパンとサラダですね。メイン料理として出ていました」

「うちでは、ご飯と別にメインが有ってスープとして出ていました。高校でシチュー論争があったんです。

シチューは、メイン料理か、オカズか、スープかって」

「スープという発想はなかったですね」

「うちでは普通にスープでした。高校ではオカズだって言う子もいて熱い論争が繰り広げられたんですよ」


シチュー論争って面白いですね。

その家庭によって食べ方が違うってありますもんね。


矢場沢さんとのお昼を楽しく終えた私は気分上々に、本日もダンジョンへやってきました。


この間は武器を持つゴブリンがいたので、今回は黒杖さんを持参してきました。

柳師匠から頂いた折りたたみ杖は、会社に行く際に持ち歩くようにしています。黒杖さんは頑丈なので、ダンジョンに行く際に持って行く用にしました。


「ミズモチさん、このダンジョンは相変わらず人が来ませんね」


《ミズモチさんはプルプルしています》


「ミズモチさんは相変わらず強気ですね。私はやっぱり戦闘は怖いです」


戦いたいと言う気持ちが伝わってきます。


「何もなく平穏に暮らすのが一番ですよ。毎週、ゴブリンの住処でレベルが上がってくれれば嬉しいのですが、未だにレベル2ですからね。レベルが上がればミズモチさんともう少し話せるかも知れないので、レベルは上がってほしいです」


ダンジョン内でミズモチさんと話しながら過ごす日々は楽しいです。


ですが、やっぱりダンジョンで油断はいけませんね……


「グッ!!ツウ!!!」


突然、左肩へ激しい痛みが走りました。


「なっ、ナンジャコリャ!!!!!」


私の肩に矢が生えました。あっいえ、痛みでおかしくなっていました。


矢が突き刺さって血が出ています。


察知さんには何も反応がなかったのに!反応が二体、今更遅いです。


「ミズモチさん!」


私は自分のことよりもミズモチさんの心配をしました。

ですが、私が攻撃を受けたことで、ミズモチさんはすぐに、敵への反撃に転じていました。


「ミズモチさん、助太刀します!プッシュ!」


ミズモチさんが二体のゴブリンを相手にしているところに駆けつけて、弓を持つゴブリンを突き飛ばしました。


私の肩に矢を撃ったゴブリンは杖の一撃で簡単に倒すことが出来ました。

もう一匹もミズモチさんが難なく倒してくれました。


「ミズモチさん。先に動いてくれてありがとうございます」


《ミズモチさんはプルプルしています》


「心配してくれるのですか?大丈夫ですよ。さすがに痛いですが、ここで抜くと血がドバドバ出て危ないので、家に帰りましょう」


《ミズモチさんはプルプルしています》


「えっ?ドロップ?弓と剣?」


ミズモチさんが教えてくれて、弓と剣……それと魔石が落ちていることを教えてくれました。


「いきなり現われて訳がわかりませんが、とりあえず臨時収入ゲットですね。あっ!レベルも上がったみたいです」


いつものレベルアップ音を聞いて、私はドロップアイテムを拾って家へと帰りました。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る