第9話 杖術 レッスン

一時間ほどの講習はあっという間に終わってしまいました。授業は久しぶりだったので疲れましたね。


「なんだか、面白くねぇ講習だったな」

「そうね。当たり前のことばかりだったわ」

「二人ともそんなことないよ。大切なことだよ」


若者三人組は幼馴染とかでしょうか?私にも甘酸っぱい青春の初恋がありましたね。

賑やかに騒ぎながら会場から出て行く姿は、なんだか羨ましい光景に思えて胸にくるものがあります。


若いなぁ~と、やりとりを見つめながら、私は去って行く新人さんとは別に山田講師に近づいて行きます。


「講習ありがとうございました」

「うぉっ!」


いきなり話しかけて驚かせてしまいました。


「えっと、新人だよな?」

「はい。新人の阿部と申します」


やっぱりスキンヘッドにオジサンでは驚かれるようですね。


「阿部さんか……それで?何か用か?」

「すみません。私テイマーでスライムをテイムしているのですが、私自身も強くなろうと思いまして、どうすればいいのでしょうか?」

「テイマーか、また特殊な職業を……そうだな。戦士や魔法使いと違って、直接的な戦いをするわけじゃないテイマーは、自分の身を守れる護身術を覚えるのがいいだろう」


先輩冒険者の助言は的確です。

やっぱり質問してよかったです。


「盾術か、棒術はどうだ?」

「盾術と棒術ですか?」


どちらもあまり聞いたことがありません。

冒険者と言えば、剣術とか槍術、もしくは魔法だと思っていました。


「ああ、盾なら阿部さんが防御に専念して、魔物に攻撃してもらえる。

魔物の攻撃に不安があるなら、阿部さん自身が攻撃ができるように棒術を覚えればいい。

剣士なら剣、戦士なら斧や槍を勧めるんだが、棒は防御や攻撃に応用が利いて良い武器なんだ」


ちゃんと考えてくれていることが分かります。

山田講師の助言を聞くことにしました。


「ありがとうございます。どちらも冒険者ギルドで習えますか?」

「ああ、どっちも習うことができるよ。インフォメーションで聞いてみてくれ」

「ありがとうございます」


私は山田講師に別れを告げて、講習会場を出ました。


山田講師のオススメに従って、盾術と棒術を見学に行ったところ、盾術は私には無理でした。

ムキムキマッチョなお兄さんたちが、大きな盾を持ってぶつかり合っているのです。


あれですね。アメフトのスクラムや、相撲の稽古風景を見ているようでした。

きっと、魔物が突進してきたときに盾と己が肉体を持って仲間を守るのでしょう。


……タンク恐るべし……私には絶対に無理です。


もう一つのオススメである棒術を習う事にしました。ですか、講師の元に来たところ……


「はっ?なんだって?」


禿頭にヨボヨボの老人が杖を突いて腰を曲げながら立っておられました。


ここ……屋根はありますが、訓練所でも、道場でもありません……通路です。


「だ・か・ら~棒術を習いに来ました!柳先生ですか?」


インフォメーションのお姉さんに教えてもらって、やってきたのは、この耳が遠い柳先生の棒術教室でした。

元々、棒術は日本古来の伝統武術であり、教えられる方が限られているそうです。


「あ~、ワシが柳じゃよ」

「棒術を習いにきました」

「棒術?はて?」

「柳先生ですよね?」

「ワシが柳じゃよ」


え~これ棒術を習えるんですか?会話も出来ませんけど……


「ふぉふぉふぉ、君は間違っておるよ。ワシが教えるのは杖術じゃよ」

「杖術ですか?」

「そうじゃよ。棒術は、ほれ、あっちのゴツイ先生がおるじゃろ」


指を差されて見た方向には、これまた筋肉ムキムキな先生が180㎝はありそうな長い棒を振り回しておられました。

なんでしょう、かっこいいのですが、物凄く私には向いていない気がします。


「あわわわ」

「ふぉふぉふぉ、ワシのところに来る者はおらんよ。杖術はリーチも短ければ、威力もないでな。魔物を相手にはあまり役に立たんと言われとる」


私は柳先生の手に持つ杖を見ました。


普通に老人が支えとして使う杖ではありますが、リーチは私の腰ぐらいで、それほど長くはありません。軽そうで使いやすそうに見えます。


「あの、私に杖術を教えて頂けませんか?」

「ふぉ?おぬし変わっておるなぁ~」

「よく言われます」

「ふぉふぉふぉ、良かろう。ワシのお古じゃがこの杖をやろう」


そう言って柳さんの背中から折りたたみ式の杖が現われました。


「えっ?折りたたみ」

「杖はの、普段から持ち歩く方がええ」

「あっ、はい」

「それとな、使い方としては三つほど覚えてもらえればええよ」

「三つですか?」

「そうじゃ。まずは体験してみてくれ」


体験と言われた瞬間、私の身体は宙を舞いました!!


「うわっ!痛い!!!」


お尻から落ちた私は自分の足首に柳さんの杖が引っかけられていることに気づきました。


「ヒドイじゃないですか!」

「何っ?自らが体験することで理解できるというものじゃ」

「次にすることときは一声かけてくださいよ」

「それでは意味が無い」


そういって柳先生の杖がボクの腹に押し当てられました。


「また何かするのですか?」

「ふぉふぉふぉ、もうしておるよ」

「えっ?」


言われた直後に杖が突き出されて私はお腹へ痛みと、後ろへ押し込まれる圧力でまたもお尻を打ち付けました。今日はお尻の厄日です!!!


「杖はのう、他の武器と違って、それほど強度が強くはないんじゃ」


お尻をさすっているボクに柳先生が講義を開始してくれます。


「普通に殴れば杖が折れる。だからこそ搦め手が大事なんじゃ。足を引っかけ、胸を押し、杖を突き下ろす」


最後に柳先生が言われた突き降ろしは、私の足の甲に杖が突き下ろされて悶絶しました。足の甲って、メッチャ痛い!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る