第19話 相談
個室の外から賑やかな声が程よく聞こえてくる店内。
三日月の前には2人の男女がこちらを向くようにして座っていた。
「……ごめんな、兄貴、姉さん……」
新婚の夫婦に相談するには不吉すぎる内容だと、申し訳無さそうにする三日月に、内に溜まった怒りを抑えつつ肩を強く叩いて慰める満。
隣に座る涼子も義理とはいえ弟になる三日月の話は満から聞いており、彼がこれ程弱るとはよっぽどの事だと理解していた。
「お前は本当によく出来た男だよ。そこまで相手の事を気遣えるんだから……。でも、自分も気遣ってやれよ、三日月。」
零れそうな涙を浮かべる三日月にそっとハンカチを差し出す満。
あれから1ヶ月、約1年ぶりに会う兄の顔に、三日月の堪えていた感情も止めどなく流れ出してしまった。
居酒屋の料理を少しつまみつつ、三日月が落ち着いた所で、涼子が口を開いた。
「三日月君は、どうしたいの?」
「……別れます。それで、言葉にしづらいんですが……何と言うか……。」
少し口ごもった後に、三日月が続ける。
「今のところに住むのは、ちょっと辛くて。会社も街も……思い出に繋がっちゃうので……。あと、朱音は軽井沢に残るって言ってて……。」
それを聞いた途端、今まで優しい雰囲気だった彼女は眉を吊り上げ、睨みつけるような視線を三日月に向けた。
「それは優しすぎ!相手が悪いんだよ?軽井沢に残りたければ相手が出て行くべきでしょ。三日月君がそれを理由に出て行く必要は無いよ!」
「いや、それだけじゃなくて……。俺、これを機に東京の店で働きたいなと思ってて。」
あー、と納得した様子で眉を下げる涼子だったが、また眉を吊り上げて今度はテーブルの向かいから身を乗り上げるようにして迫ってきた。
「なら、引っ越し費用も半分出してもらいなさい。婚約破棄だから本来はかなーりお金取れるんだけど、多分しないし気持ち的にも難しいでしょ?」
隣で涼子の強かな部分を見て少し青ざめている満。
「まだ口座は揃えてない?なら大丈夫ね。生活費とかはちゃんとやってた?」
「それが……。」
涼子と満は驚きと呆れの混じった表情をして三日月を見つめた。
三日月はとんでもないお人好しだった様だ……。
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