第18話 独力
約8年前、2人が初めて出会ったのは、教室の前後の席だった。
お調子者の自分と比べて、若干15歳のその男は大人びて見えた。
いつも冷静で、的確なツッコミを入れてくれる。
そんな彼お仲良くなるのに日数はかからなかった。
彼は自分のボケやどうでも良い話に嫌そうな顔をしながらも、必ず最後まで話を聞いてくれる。
彼は中学までの8年間、野球をやっていたらしい。
兄がいるから高校は硬式テニスをする、とのことだ。
水泳部のプールの横にあるテニス部はよく見える為、練習の合間によく眺めていた。
周りは皆ソフトテニス経験者、そんな中唯一下手だった彼は、日に日に上達していった。
秋になった。
2年生の新部長が顧問と大喧嘩して仲間を連れて総退部、部員が30名からわずか4人となってしまったらしい。
唯一残った先輩は一番下手な太っちょの先輩で、内申点が欲しいから、だそうだ。
ソフトテニス部と2面ずつ使っていたコートは、1面だけとなってしまった。
ソフトテニス部は県内でも強豪で、度々関東大会にも出場する程だ。
対して硬式テニス部は、かつての部員達が居ても1、2回戦負けがほとんどであった。
だが、やる気のないメンバーをよそに、三日月だけは本気だった。
練習後、本来であればソフトテニス部にコートを譲るところだが、三日月は顧問に頼み、自主練習で1面使わせてもらっていた。
たまに同学年のメンバーが一緒に練習するが、ほとんどが1人での練習。
ひたすらサーブ練習をしていた。
2年生の春。
春の大会で三日月ともう1人のペアは、ダブルスのブロック予選を決勝まで勝ち残っていた。
聞いた話だと、各ブロックに私立のシード選手が配置され、基本的にその選手たち以外が予選を突破する事は無いらしい。
久しぶりに公立校から決勝に進んだ為、周りにはギャラリーが沢山集まっていた。
そんな中、彼らは善戦したが負けてしまった。
2年生の夏
唯一の先輩の最後の夏、1回戦でシード校と当たり、3戦のうち3戦目に出場となった三日月にバトンは回ってこなかった。
だが、1回戦は必ず3戦やる決まりで、三日月は勝敗が関係しない試合ではあるが、シード校のエースとの接戦を勝利していた。
いつからか、三日月がチームのエースになっていたのだった。
いつしか居残り練習には、後輩含め多くの者が参加するようになっていた。
3年生の夏。
最後の最後まで諦めなかった三日月の努力は遂に実を結び、団体で県ベスト8まで進めた。
たったそれだけだが、三日月の揺るがない決意と努力、どんな環境でも進む力は、どんな時も何にも本気になれなかった自分を奮い立たせてくれた。
きっと三日月は、自分の知らない数年間も、目標に向けて努力をし続けたのだろうと。
いつだって、三日月は迷った自分の背中を押してくれた。
今度は自分が、三日月の背中を押してやろう。
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