第12話 覗き

その晩、三日月は会社から帰るいつもの道を車を走らせながら考え事をしていた。

主に、先日の永澤の話の内容だった。


「……お前が後悔ないように、お前で決めろ……」


その言葉が、三日月の中で一筋の光の様に陰りを照らしてくれているのだった。

あの日、三日月は朱音に「話し合いたい」と言っていた。

互いが空いている最短の日程が今日であった。


普段三日月はディナーを担当することが多く、月に数回だけ、朝食ブッフェのリーダーを担当することがあった。今日はその朝食担当の日で、シフト上、夕方5時までには帰宅することが出来るのだ。

ディナー勤務の時は、お互いの寝顔を見るだけの生活となるので、こう言った日は特別だった。


久しぶりに朱音の「おかえり」を脳内でなく聴けると思っていた三日月は、リビングのドアを開けたところで気づいた。

もう秋なので、午後5時ともなれば外は暗い。



しかし、家の中には明かりが無かった。



そっと寝室を除くと、暗い部屋の中にぽつんとスマートフォンの明るい画面、イヤフォンをしたまま眠る朱音が居た。


付き合った当初から、朱音は通話や音楽を聴きながら寝落ちする事が度々あった。

今回もそうだろうと、三日月はイヤフォンを外そうと近づく。


───その時、ふと見た画面には───


K太


何かが、音もなく崩れていた事に……

三日月は、今気づいたのだった。

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