第7話 寝言

三日月の最近としては、久しぶりに騒がしい1日となった。


新入社員が研修に行っている為、新入社員の仕事も舞い込んで来たのだ。

2人分の仕事は彼らを手一杯にするには十分であった。珍しく遅めの帰宅となり、3時間残業して0時前、厚手のコートを片手に三日月は家のドアを開けた。

新入社員研修はあと2日、その間は忙しくなるなと途方に暮れつつ、リビングへの階段を登った三日月は、ちらっと寝室を覗いた。

朱音はまた通話中に寝落ちしているみたいだ。

三日月は何食わぬ顔で、シャワーを浴び、コンビニで買ってきた弁当をつついた。


シンクに残しっぱなしの昼夜1人分の食器や調理器具はそのままに、自分のコップだけ洗って戻した。

なんてことない。朱音のうどん屋は今閑散期で、彼女の仕事は3時間ほどで終わってしまう。

終わったら車で暖まりながら映画を見ているのだそうだ。


対して三日月はまだ忙しい最中、彼が彼女のサポートをする理由も意味もないのだ。


日付が変わっている。今日も忙しいだろうと、疲れた様子でベッドに向かう三日月は、朱音の顔を覗いた。

相変わらず寝顔は可愛らしく、いつもこの寝顔に助けられているとさえ感じる。


さて、眠りにつこうとリビングの薄暗い明かりを消しに踵をかえしたその瞬間───。



彼の知る以上、ケイタという人物は朱音の知り合いに居た記憶が無い。

天と地が分からなくなるほど歪む視界と、吹き出す冷ややかな汗。焼き切れるのでは……と錯覚する程に、三日月の脳はその一言だけを頭の中でリピートし続け、眠りにつけるわけもなかった。

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