第3話 その1 溜息

「ただいまー。」

次第に寒さを増してきている夜。

手を擦り合わせながら三日月は自宅のリビングへ向かっていた。

今日は休みのはずだが、返事は無い。

リビングを開けると、電気は着いているが紅音の姿は無かった。

ちらっと寝室を覗くと、どうやら寝落ちてしまったらしい、イヤフォンを両耳に着けたまま眠っている彼女の姿があった。

イヤフォンのコードが伸びた先には、画面のついたままのスマートフォン。

どうやらまた、グループ通話をしながら寝てしまった様だ。

三日月は最近よくこの光景を目にしていたのであまり気にしなかった。というのも、紅音は時間問わず、1日数回通話をしているらしい。

携帯の画面を切り、イヤフォンをそっと外してから台所に向かう。

そこにはおそらく昼食を作ったであろう鍋や食器がそのまま置いてあるだけだった。

これもよくある事だった。


三日月は冷蔵庫を開けるが、それらしいものは入っておらず、諦めて冷凍庫からラップに包まれたご飯を取り出した。

これもよくある事だった。


三日月はレンチンしたご飯と、即席の味噌汁や適当に作ったおかずをつまみながら、小さくため息をついた。

紅音が自分に料理を作りたくないのは分かる。

だが、やはり買い物は休みの人が行けば良いし、自分の使った食器は片付けて欲しいと思う。

最近は三日月が休みの度に買い出しに行き、食材や料理のストックを用意していた。

これもよくある事だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る