第2話 雲瀬景
産まれた時から、何かを覚えていた。
朧げで、言葉では例えられない何かを…
母はよく俺が描いた絵の事を言っていた。
姉は下手な絵だと言っていたが、俺は何故かことあるごとにその絵を描いていた。
夜眠る時に知らない誰かが俺を呼んでいる気がした。
俺の名前じゃないのに俺だとわかった。
ある時、祖父がやっていた剣道に興味を持った。理由はない。
祖父からは筋が良いと褒められてどんどん上達していったが、自分は凄いと思えた事はなかった。
絵も練習して上手くなった、クラスの皆や先生に褒められた。
勉強も頑張った、運動も出来た。
けれど自分よりずっともっと凄い奴を知っている気がした。
「景!何ボーッとしてんの!行くよ!」
姉の
なんというか俺は自分の名前を自分の物だと言う実感が湧いたことがない。
8歳の頃、家族で海に来ていた。夏休みを使っての家族旅行だった。理由は俺が海がなんとなく好きだから。
将来の夢も無く、情熱というものが無い俺が興味を示す数少ない物だ。
凪「あんた、泳がないの?」
景「うん、見てるのが好きなんだ。」
凪「ふ〜ん、変なの。」
俺は泳ぐのは好きではない。ただ、さざ波の音と青い景色が好きなのだ。
何かあたたかい気持ちになる。
『ブラストは夢が叶ったらなにがしたいんだよ。』
『…どういう意味だ?』
『夢の先ですよ。人生夢を叶えたらそこで終わりではないですよ?』
『夢の先か…そうだな、取り敢えず綺麗な海が見たい。こんなゴミ溜めみたいな世界の海じゃなくてもっと綺麗な海が。』
『海じゃと?…良いの!皆で海を見ようぞ!』
『カハハハ!いいじゃねぇか!綺麗な姉ちゃん達を沢山ナンパしようぜ!』
『『『『『はははは!』』』』』
ザー…ザー…
波の音が耳に響く、夢を抱いていたあの頃を思い出す。一番輝いていたあの頃を…
思い出す、輝かしいあの頃を共に歩いた彼らを。
『おや、ブラストさん。』
自分よりも頭の良い天才科学者
『おい、ブラスト!』
自分よりも強い戦士
『おお!ブラストよ!』
自分よりも絵が美味い吸血鬼
そして…
『おい、相棒。』
自分の
空を見上げて呟く。
景「ああ…俺には、仲間がいたよ…夢があったよ…」
彼の頬には涙が一筋流れた。
彼の名は
彼はかつて王であった。
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