石焼き芋

紫陽花の花びら

第1話

 今や焼き芋はスーパーで自動焼き芋機で作られているのが殆どかもしれない。家でも道具さえ買えば簡単に作れるそんな時代。

便利になったもんだ。

焼き芋屋さんが来るのを待つ必要が無いのだ。下手したら夏でも食べられるし。凄いねぇ。

季節感が無い! そんなこと今更? ですよね。

ああ~石焼き芋屋さんを知らないってかぁ。そうだよね。

 

でも私が幼少時は……あのおじさんの~いーしやーきいもーおいも! ほっかほかのお芋だよ! で興奮したっけ。三時頃から軽トラックで廻って来るのを今か今かと待っていた記憶も懐かしい。

あの声が聞こえると、不思議と母親がそわそわし始めたのを覚えている。

「みっちゃん行こうか!」

「うん!」

そう、二人でよく買いに走ったもんだ。

「おじさーん! おじさーん待って!」

「三本ください! 大きいのね、えっと、これとこれと後……これっ」

なんて選んだりして。

「いつも買ってくれるからおまけだ!」

そんなこと言われたらまた買いに来ちゃうじゃない。

多分みんなあの石の焦げる匂いに誘われて買いに走る。私はおじさんがシャベルで、石を掻き回す音が何たって大好きだった。

新聞紙に包まれたお芋は熱々で

母と火傷すると言い合いながら走って帰ると、祖母が笑顔で待っている。

要らないって言っていた父や兄も笑顔だ。みんなでホクホク。

「美味い!」

「美味しい」

「甘いね」

「はふはふあふうい」

「みっちゃん何言ってるの」

どっと受ける。

「冬の音と匂いが来たね」

祖母が毎年そう言うから、終いには家族みんなの合言葉になった。


 ほら! 今年も来たよ……

おばあちゃん! 聞こえるでしょ?


「いーしーやきーいも! お芋」


「あっ 冬の音と匂いだ!」


私が走る。兄も走る。

「二本ください。おおきめの!」

父も母も笑顔で待っている。

冬が来たよ! お待ちどおさま。

母が小皿に切り分けた焼き芋を乗せておばあちゃんに上げた。


 そして、今私はスーパーの焼き芋を横目で見ながら、

「うっすいけどね。一応冬の匂いがするよ」

と祖母と父に話しかける。


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