ハズレスキル『ちっちゃなメダルを見つける能力』を持っている俺。コツコツ集めていたら妖精からチートアイテムをもらえるようになりました。

かなたろー

第1話

「あ、見つけた」


 俺は、十字路の角でキラリンと光るモノに手を伸ばした。白銀に光るちっちゃなメダルだ。ちっちゃなメダルを拾い上げると、学生服のズボンに突っ込んだ。


 いつの頃からか、俺は、このちぃちゃなメダルを見つける能力を身に着けた。

 ちいちゃなメダルが落ちていると、キラキラと光って見えるのだ。

 これはたぶん、俺の特殊な能力だ。


 とはいえ、何かの役にたつのか? と聞かれたら、別に何の役にもたたないのだけれども。


 ウゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウ!


 けたたましいサイレンが、辺り一面に響き渡る。


『緊急放送! 緊急放送! 北区にダンジョンが発生しました。深度は3、マグニチュードは5。現在、探索隊がダンジョン制圧に向かっています! 近隣住人は、速やかな退去をお願いいたします』


 北区か……かなり近いな。ケガ人が出なければいいけど。


 この世界に突如としてダンジョンが発生し、そこからモンスターがあふれ出すようになったのは、今から12年前。


 西暦2046年。俺が、まだ五歳のころだった。


 その被害は甚大で、モンスターが操る不可思議な能力に人々はなすすべもなく蹂躙じゅうりんされたらしい。

 でも、人類もただやられただけじゃない。モンスターが操る未知のエネルギーのメカニクスをたちどころにつきとめると、その力でモンスターに対抗した。


 それは『血』の力だ。


 それは、人類が生まれつき持っていた能力だった。生まれ持った『血の才能』で、未知なるエネルギーを解放できる。そのメカニクスを紐解いたのだ。


 最初に見つかったのは、身体能力を向上させる能力。

 次に見つかったのは、水と大気をコントロールする能力。 

 その次に見つかったのは、植物をコントロールする能力。


 これらの特殊な能力を持つ人々の血は、特殊な成分を配合した白い『マシリト紙』に浸すことで変色反応を示す。


 身体能力を飛躍的に向上させる能力を持つ人間の血は、土を溶かしたような黄色に。

 水の成分を気体・液体・固体へと、自在に変容させる能力を持つ人間の血は、黒みがかった青色に。 

 植物を急成長させたり、たちどころに腐らせたりできる人間の血は、あざやかな緑色に変色する。


 それぞれ、イエローブラッド、ブルーブラッド、グリーンブラッドと呼ばれ、それら『血』を色濃く持つ人々の一部が『探索者』となり、ダンジョン制圧の仕事に就くようになった。


 もっとも、モンスターと対峙する命がけの仕事だ。探索者の仕事に就くのは、よほどの濃い『血』持つ能力者、もしくは命知らずの冒険野郎だけ。


 俺のような何の能力を持たない人間には関係のないことだ。


 俺の『血』は、黄色にも、青色にも、緑色にも変化しなかった。単なる普通の赤色。何の能力も持たない『ノーマルブラッド』のままだった。


「おはよう、ノーマルブラッドの、白戸しらととおるちゃん!」


 俺は声の主に「バシン」と背中をたたかれた。痛い! まるでバールのようなもので殴られたような鈍痛が背中に走る。い、息ができない!!


「ご……ごほ……おはよう! 逆村さかむら


 俺がむせている中、その原因をつくったそいつは、いっさい悪びれることもなく、ニコニコとした笑顔をはりつけて俺にあいさつをした。


「悪ぃ、悪ぃ、軽いスキンシップのつもりだったんだけどぉ。俺、なんせ高純度イエローブラッドだからさぁ。将来を約束された探索科のエリートだからさぁ。普通科の凡人に対して力の加減ができねぇんだわ!」


 こいつの名前は、逆村さかむら紘孝ひろたか


 幼稚園からの幼馴染ひとりだ。だけど俺個人としては、こいつのことを断固として幼馴染と認めたくはない。

 子供のころから万引きの常習犯で、その罪を他人に擦り付けるどうしようもないクズ野郎。誰からも相手にされなかった鼻つまみ者だ。


 けれども、『血』の才能は人を選ばない。『マシリト紙』にひたした逆村さかむらの『血』は、まるでウ〇コのようにまっ黄色だ。身体能力を驚異的に増強させる、イエローブラッドの能力者だ。それもかなりの高純度の。


 逆村さかむらは、身長160センチに満たない小柄な体格だが、その身体能力は驚異的で、ダンジョン探索のエキスパートを育成する探索科に通っている。

 探索科に通う生徒は何もかもが特別だ。授業料も免除だし、学食だって無料で利用できる。それも国家資格を持つ栄養士による、超豪華ビッフェの食べ放題だ。

 普通科に通う俺なんかと違う、生まれつき住んでいる世界が違う。選ばれた人種なんだ。


「ところでよ、とおるちゃん。あの件、どうなった」


 逆村さかむらは、無理やり肩を組んでくる。

 俺は、その強烈な腕力に、中腰になりながら返事をした。


「なんだよ? あの件って」

「は? しらばっくれるんじゃねえよ! 早く卯月うづきと別れよや!」


 逆村さかむらは、肩にまわした手を俺の首にひっかけて、グイグイとしめつけてくる。


「ゴホ……わ、別れるって、俺、別に乙花おとかとは付き合ってないし!」

「うるせえ! だったらなんでお前みたいな普通科の凡人ウ〇コ野郎と、卯月うづきが毎日昼飯を食ってるんだぁ?」

「そ、それは、俺んちが父子家庭だから、乙花おとかが毎日お弁当を作ってくれて……」

「あぁん? なにシレっと自慢してるんだよ!」


 ゴス!!

「ぐあぁ」


 逆村さかむらのパンチが俺のみぞおちにヒットする。俺はたまらずうずくまる。


「悪ぃ、悪ぃ。とおるちゃん♪」


 逆村さかむらはニコニコしながら、無理やり俺を肩をだくと、小さな、でもエラいことドスのきいた声で、つぶやいた。


「いいな! 今日中に卯月うづきと別れろよ! 返事は?」

「そ……そんな!」


 ゴス!

「ぐはっ!」


 再び、逆村さかむらの腹パンが直撃する。

 その時だった。


「おはよう! とおる逆村さかむら君」


 背中から聞きなれた声が聞こえてきた。

 幼馴染の卯月うづき乙花おとかだ。


 乙花おとかは栗色のショートカットをゆらしながら駆け寄ってくる。アイドルにいてもおかしくない、かなりの美少女だ。

(ちょっとだけ、ぽっちゃり気味だけと)


「お、おお! おはよう、卯月うづき!」

「お……お……は……よ……乙花おとか……」

「!? どーしたの? 透? 顔、真っ青だけど?」

「あ、ああ。透のヤツ、いきなり気分悪くなったみたいでよぉ、俺が介抱してやってたんだ。卯月うづき、あとは頼むわぁ」

「え? う、うん……」


 逆村さかむらは、わざとらしいウソをつくと、俺をつきとばして小走りに去っていった。

 その時だった。


 ザシュウ!


 突然、目の前に、真っ白い斬撃が走った。その斬撃は、逆村さかむらの身体を貫通する。


「ああん!? なん……だ……こ…………れ…………?」


逆村さかむら君?」

「お、おい大丈夫か!」


 乙花おとかと俺は、叫び声をあげた。

 けれども、その声をかき消すかのように、


 ザシュウ! ザシュウ!! ザシュウ!!!


 斬撃が、俺たちの四方をぐるりと囲むように走った。


 ……?

 なんだ??

 この違和感???

 体がフワフワ……する????


 俺は、足元をみた。


「おい! ウソだろ!?」


 地面が……無い!!!!


 これ、ダンジョンだ!

 俺たちの足元に、ダンジョンが発生したんだ!

 俺たちは、今、ダンジョンの深源地にいる!!


「うわああああぁぁ!!」

「きゃああああぁぁ!!」


 俺と乙花おとかは、文字通り足場を失って、ダンジョンへと落っこちていった。


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