立花・助人(新入神官③)
言い渡された僕の所属部署は、【冒険安全衛生管理部】という名前だった。
それを聞いた瞬間、頭はその聞き慣れない言葉が理解できなかった。
はい!とその任命を引き受けた後さえまだ頭の整理が追いつけなかった。
安全...衛生...管理?
ギルドの中にはこのような部署があるとは知らなかった。
初めて聞いたその名前にある違和感が体中に走り回った。
そこで僕は何をするのか...と
もちろん、超一流名門冒険者ギルドには決して冒険者しかないというのはとっくに知っている。
皆が皆でダンジョンで活躍したり、クエストの任務を遂行するという...言わば冒険の最前線に立つことはあり得ないことだ。
その後ろには様々な分野で冒険をサポートする部署が存在する。
そのような部署があるのは理解している。
しかし、僕が希望したのは実際にダンジョンでパーティメンバーをサポートしながら、戦う神官を教育し、ダンジョンやクエストの適性でパーティに派遣する【神官部隊】の方にしたはずだ。
でも...僕がそこには選ばれなかった...
なぜだ...
その疑問が消えないまま...僕はそのときの上司、係長が僕に部署の案内をしてもらった。
係長によると、冒険安全衛生管理部は最前線で活躍する各パーティの冒険が安全かつ健康に冒険が実行できるように様々なことをするサポート部署だと説明された。
実際の神官はその場で直接パーティメンバーをサポートし、助けるという点に対してはこの部署がやっていることは直接じゃないが、根本的に似ている。
神官部隊に配属されなかったことはとても残念だったけど、これもこれで皆の役に立てると思った僕は自分が配属された部署の部員たちに挨拶した。
「はじめまして!ドゥナリアスからまいりましたスケト・タチバナと申します。今日からこちらに配属されることになりました。知らないことばかりで、皆さんにお手数をおかけするかと思いますが...全力で頑張りますので、ご指導・ご鞭撻のほどどうぞよろしくお願いいたします。」と言ってから、お辞儀をした。
そのときの歓迎したかのように聞こえた拍手の音と共に聞こえたこぼれた笑い声...そして、無愛想の顔をした係長に言われた最初の言葉、「ここではお辞儀は要らない。」
それで僕は理解した。
ここでの僕は最初からよそ者だった。
文化の違いさえも受け入れない人も普通にいる。
ギルド内では...王国のやり方さえ従えば問題ない...違うことをやればその目で見られる...そのような場所だと
それでも自分ができることは全力で取り組むつもりで指導を受けて、統括団長のお言葉の一部であるプロ意識を持って、仕事を全うするんだ。
神官になることも諦めない...僕が神官になることを志すのはあの方と出逢ったから。その人のような神官になりたい。だから、僕はここに立っている!
しばらくこの仕事に慣れたら、人事部と相談して...異動届を提出しよう...まず今は目の前にあるこの仕事に慣れるのが先だ。
とそのとき...俺は本気で思っていた。
それは地獄の始まりということには気を付かずに...
知らないことは当たり前...誰も最初から何でも知っている訳じゃない。
しかし、さすがに一回教えただけでずべての仕事が把握できるほど...僕はそんなに器用じゃない。
それに反して、教えたのは最初だけ...その後は放置...
研修の期間はあるけど、それはダンジョンや冒険に関する基礎知識と基本ルールに過ぎなかった。
それを教えられただけであって、今の仕事は職場で学ぶしかなかった。
最初に僕を指導してくれる指導員の先輩はいたが、多忙の挙句、突然遠征の仕事に駆り出された。
代理指導員の係長も同じく多忙で、ろくに仕事のことを教えてもらえなかった。
理解できない僕が悪いのか...それともこれはギルドの普通の教育方針なのか...
最初は何もかも分からないことばかりでとにかく必死に食らいついただけだったけど、少しずつ自分の理解がやっと追いついた。
この部署の主な仕事は大まかに3つに分けられた。
一つ目は、【標準・要領書】の作成だ。例えば、装備の点検頻度と確認箇所やアイテム所持制限などの行動規範を制定し、今後のギルドのダンジョン探索やクエスト遂行にはこれが標準として適用し、後はダンジョンの特徴やクエスト特有の内容に合わせて、それに特化したガイドラインにする。最低限にはこれを守らないといけない。二つ目は【安全教育】だ。その言葉の通り、これからダンジョンやクエストに派遣される冒険者に最低限の安全ルールを教育することだ。これを受けないと派遣されない決まりがあった。受けた人には修了証をもらって、有効期限が切れたらまた更新しに来ないといけないという決まりもあった。この仕事はただギルドの安全ルールを説明するだけなので、案外難しいことじゃない。そして、3つ目は各地からの冒険報告書で報告された【災害・事故事例】をまとめて、今回の出来事から学んだ教訓と二度と同じことが起こさないための再発防止対策を関係者と協議して、その情報を各地に共有し、注意喚起する。この仕事がきっかけに知らなかった類いの事故を知ることになったことも少なくない。
別の仕事があるとすれば、安全意識向上活動だな...ギルド全体の安全に関する意識を高まるために様々な取り組みをやってみるということだ。教育だけではなく、実際に疑似体験をしてもらうことで危機感をより意識させることができたりして...ここは個人差があるから、本当に効くのかは分かりにくい...
このような仕事をして、入団から半年が経った。
僕はただただひたすら似ている内容の事務仕事にやらされただけ...
たまには自分の母国語を使って、書類の翻訳をする機会があったけど、そんなに頻繁じゃない
仕事を全うする...プロ意識を持つ...それは分かっている...
でも...これは何の意味がある...と自分がずっと疑問だと思っていることが徐々に膨らんで、抑えきれずにいた。
神官の話も何回か人事部に相談したが、今は増員の予定もなく...要請もないため、異動は難しいと言われた。
入団試験時での僕の神官としての能力不足とは関係ないらしい...ただ神官部隊は入団者数が多いからだとか...
その結果、半年が経ってもろくに神官らしいことの一つもしなかった。
毎日書類の仕事に追われた日々...
神官としての訓練も...実践もない。
皮肉に安全のことの方が詳しくなった。
そして、ある日突然僕は係長に呼び出された。
言われたのは僕が神官のジョブへの異動を希望すること。その話は難しいとのこと。しかし、書類の仕事だけでは安全の仕事を理解するには限界があるとのこと。現地に行かないと、実際に体験できないことが多いとのこと。
それで僕の見識と視野を広めるため、
そこで僕は気づいた。
ここでは【現地主義】ということを...
だから、誰も教えてくれなかったんだ。
実際の現地で学ぶことが一番手っ取り早いということだからだ。
しかし...よりによって出張先はあのソアルだったとは...
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