用意周到

城下町のある店


その店の中に飾ってある商品をチェックしているスケトに対して、ヴィオはただ不思議そうな表情で珍しそうなアイテムを眺めている。

「この色...確かに属性は...」と呟いていたヴィオ。

これはどんな効果があるだろう...嘘!このアクセサリー、値段が高すぎる!この小さなな宝石が埋め込まれているからか...それにしても私が持っているお金では到底...と思ったヴィオだが、背後から声が聞こえた。

「そのアクセサリーが欲しいですか?」という言葉にヴィオは振り返った。そこにはスケトが立っていて、ヴィオに笑顔で見ている。

「あっ、いいえ。ただ値段に驚いただけです。」とヴィオが説明した。

「そうですね...かなり値段が高いのですが...うん...すみません!」とそこで店員を呼んだスケト。

「はい。何の御用でしょうか?」と尋ねた店員に対し、スケトは想定外の言葉を口にした。

「この女性の方にこのアクセサリーが買いたいですが、別の商品も買いますので...そこで少しでもいいので値切りしてもらえますか?」

「え?あっ、あの...私は別に...」と誤解を解こうとしたヴィオだが、途中でスケトに止められた。

「このアクセサリーはヴィオにピッタリだと思うから、買おうと思っています。大丈夫ですよ...これも次の出張のためです。」と話して、しばらく店員と値段の交渉をした結果...他の商品をある数まで購入する代わりにそのアクセサリーの値段が2割ぐらい安くなった。


全ての買い物を済ませた二人は店を出た。

ヴィオは先ほど値切りされたアクセサリーを手にして、どこかに恥ずかしくて嬉しそうな顔をしている。

まさか本当に買ったなんて...なんで私のためにこれを買ってくれたのかなんか...気になるけど聞けないよ...とうずうずしているヴィオだが、先にスケトは口を割った。

「ありがとうございます、ヴィオ。おかげで値切りしてもらえました。そこの店員は男女のカップルのお客さんの押しに弱いというところが以前に知っていて、それで僕が君にこれが買ってあげたい雰囲気を作ればまけてくれると思いました。おかげで目当ての品物も買えて、そのアクセサリーも買えたから、感謝しています。その説明を聞いたヴィオはさっきの嬉しそうな顔から苦笑の顔に変わった。

「え、ええ...役に立てて良かったです...」とスケトに目を逸らした。

何を期待しているのよ、私。勝手に一方的に気になっておいて、相手にはただ仕事の仲間としか考えないから、こういうことで普通じゃない。まあ、自分を利用して値切りするのは少し不満もあったが...と考えているうちにスケトはさらに言葉を加えた。

「そのアクセサリー...ヴィオにあげます。次の出張でダンジョンに入るときは必ずそれを付けてください。いいですね。」という言葉にヴィオは反射的に嬉しい顔をしてしまった。

「あ!はい!分かりました。ありがとうございます!」とお辞儀したヴィオを見て、スケトは少し微笑んで、こう言った。

「王国ではお辞儀をする必要がありませんよ...」


一旦冒険案内所に戻った二人は出張に購入した必要なアイテムを整理して、案内所に置いてもらった。

その作業が終わった後、スケトは時計を見た。

「では...そろそろ終業時間だし、帰る支度をしましょうか?」

「はい。あの...私は初日ですので、他の雑務でもやりますが...」と言ったヴィオにスケトはこう答えた。」

「ヴィオは研修生なので、正式にはまだ採用されていません。研修生には報酬をある程度支給できますが、無理に働く必要がありません。終業時間になったら帰ってもヨシです。それに...今日はお約束の場所に案内しようと思って。」と説明した上に、次に行く予定の場所を話したスケト。それを聞いたヴィオは納得して、自分も帰る支度をし始めた。

終業時間を告げる鐘の音が鳴った途端、スケトはすぐさまに立ち上がって、「お先に失礼します!」と言って、案内所を出た。次にはヴィオも少し慌てて、出る前に「お先に失礼します!」と言ってからお辞儀して、スケトを追いつけた形で案内所を出た。


クダンスター地区から馬車に乗って30分ぐらいで到着したその場所は王城があるクダンスターの雰囲気から一変した。

以前に行ったイフカダ地区のような貧民街とは違う...

散らかったゴミ...

適当に店の前の路上に置かれた看板やのぼり旗...

さらに酔っ払って路上で倒れて寝込んだ人もいる

そして、薄暗いランタンに照らされる道...

初めて見た者にしてはすぐに帰りたくなるほどの雰囲気だが、そこに訪れた二人。

城下町で周りの目を気にするヴィオだが、今は目線を気にする余裕がなく...どちらかというと身の危険を感じて、構えてしまっている。

その様子を見たスケトはその警戒心を少し解きたいかのように説明をしはじめた。


「ここは...夜の街で有名の...地区です。ここでは昼のクダンスター地区とは正反対で、日が沈まないと店はやっていません。仕事が終わって、様々な娯楽を求めた人たちが集う街です。さらに宿代が安いからか定かじゃありませんが、この地区にはこの王都に滞在している異国の人たちが多くここを選んでいます。その副産物で生まれたのは異国料理の店です。特に多いのはアニックの店ですかね...ソアルや他の珍しい国の料理もありますよ。もちろん...ドゥナリアス料理の店も!今日案内するのは僕の行き付けの店です。」とここでスケトは歩き始めて、歩いている途中にもまた説明している。

「ここはあくまで入り口にすぎません。さらに奥に進むと、王国最大の歓楽街、【エクセントリックシティ】があります。実際の名前はイクバクですが、その名前の通り...かなりディープでエクセントリックな店がいっぱいあることで初心者にはお勧めできません。そこは...そのものです。決して一人では行ってはいけません...」とここで説明が終わると、ちょうどある店の前にたどり着いた。


ドゥナリアスの言葉で【タカラヤ】という名前と書いてある赤提灯が掲げている店の前に立ち止まった二人。そこでスケトはヴィオに店に入ることを促した。

店の中には以前歓迎会に使われた居酒屋とは全く違って、異国の雰囲気...特にドゥナリアスを思わせるような飾りが施されている。色や明かりも全て合わせてまるでドゥナリアスに瞬間移動したと思うほど。

「すごい...母がたまに連れてきてくれた店と同じ雰囲気でした。」それを聞いたスケトは笑顔でこう言った。

「結構ノスタルジックに感じますよね。ここでは雰囲気もそう...本場のドゥナリアス料理の味が堪能できます。店長さんは僕たちと同じドゥナリアスの人で、ドゥナリアス料理を初めて王国に広めた第一人者とも言えます。」と説明した後、ある人から声を掛けられた。


「おう!来たか!スケト!」と店内を見ると、手を振った中年の男性が見えた。

その男性も二人と同じく黒髪と黒瞳をして、少し肥えるけど筋肉もかなり付いている。

その男性を見たスケトは挨拶をした。

「先生!お久しぶりです!」

「よせよ...先生なんて、俺はただこの店の店長だ。」

「じゃ...とっさんでいいですか。」

「それも...まあ、好きに呼べ。全く...久々に会ったら、なんか変わっていないな、お前。」

「はい!今日も美味しい物を食べに来ました。後...先日メッセンジャー雲助経由で依頼した件ですが...例のものはどうですか?」とここで別の話に切り替えたスケトに対して、とっさんと呼ばれた店長はいい笑顔でハッキリと「バッチリだ!」と答えてから、ヴィオの方を見た。

「このお嬢ちゃんは例の...」

「はい。」

「なるほど...聞いたときは驚いたが、このべっぴんさんね。」とさりげなく褒められたヴィオの顔が少し赤くなった。

「は...始めまして...ヴィオ・紫・カミサカです。」と恥ずかしいながら、自己紹介したヴィオ。

「その褒め方...おっさんくさいですよ。」と冗談っぽく行ったスケトに対して、「うっせーな...お前を褒めたじゃないから。」と返した後、「準備に時間が少しかかる。その間には美味い物を食べて、待ってろ。」と店長が言って、店の裏に消えた。


とろあえず席に座った二人は店の壁のあちこちに貼ってある紙を見て、そこに書いてる料理名を確認している。

そこで、ヴィオはスケトに質問をした。

「例のものとは...何ですか?」

「それは、ヴィオのために用意してもらった物です。」という答えにヴィオはまた驚いた。」

「私に...ですか?」

「はい...ヴィオには自分に合うジョブを探すために今ここにいる...そのサポートは僕がすると約束しましたから...その一環としてです。次の出張のためでもあります。要するに【用意周到】...それができてから、出発することにします。その準備は君のことも含めてね...ヴィオ。」と行ったスケトの目は真剣さが伝わった。それを見たヴィオは自分が思う言葉を口にした。

「こんなに私のことを思ってくれて、感謝しています。改めてありがとうございました。」

なんでそこまでする必要があるのかは聞かないようにして、ヴィオは別の質問をすることにした。


「スケトさん...ソアルにいたときの話を聞かせてくれませんか?」

「ソアルの話ですか?...まあ、自分に取っては良くも悪くも思い入れがある場所なので、興味があれば話しますよ。まずは、何かを注文しましょう。話は料理を待っている間にします。」


ソアル出張の過去...明かされる。

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