ソアル出張

王国最大の歓楽街、ニューロッジ地区

その中にあるドゥナリアス料理店「タカラヤ」


店内の異国の雰囲気全開の中で...二人組はその雰囲気に溶け込まれている。

他の客は王国ではよく見かける容姿の人たちだが、不思議なことにこの店の中ではその二人の黒髪と黒い瞳を珍しい者として見る人がいない。

それはもちろん、店長もコックさんも店員まで...二人と全く同じ色の髪と瞳をしているからだ。

その二人の会話が今でも続いている。


「まあ...初めてソアルに行ったとき、居心地が最悪でしたね。」と言い始めたのは依頼でそのソアルという母国の隣国への出張が決まったダンジョン案内人兼通訳のスケト・タチバナである。

ひとまず料理を注文したスケトは、注文が来るまでに一緒に店に入った同郷の少女、ヴィオ・紫・カミサカと自分が過去にソアルに訪れたときについて話し始めた。

「最初にはソアルの首都、エンネティエブに寄ったときはまだこの王国にいたときの扱いでしたが、異国の人々との交流が日常的にある首都から一歩出た瞬間、もう何もかも変わりました。」とここで、店長が二つのコップを二人のテーブルに置いた。


「お待ち...2つ」と言って、別のテーブルに移動した。

そのコップの中には白く濁った液体が入っている。

それを目で確認したヴィオは「これは...サト...」と小さな声で言った。

「種類としては濁り酒ですね。お米で作られたので、王国の主流であるエールとかミードとかとは全く違う味になるかと思います。口に合えばですが...」と説明したスケトは少し心配な顔をして、ヴィオを見ている。

ヴィオはその目線から目を逸らし、サトが入っているコップを持ち上げて、少しためらいつつ一口飲んだ。

「...少し酸っぱいけど...甘くて美味しい...」という言葉と共に小さな笑みを見せた。

「だいたいのサトはこれより酸味を感じますが、この店が仕入れたサトは逸品です。ぜひその味を覚えてみてください。もちろん...このような甘い酒には飲み過ぎないように...」と言って、自分もサトのコップを持って、一口飲んだスケトだった。

その手に持っているコップを見ながら、話しの続きをした。

「目的地であるダンジョンまでの道のりは馬車を使いますが、たまに休憩した所々に寄った場所で会った人から軽蔑の目とか罵声とかは少々...僕的には一応そのときは石を投げられる覚悟をしましたよ...はは。」と苦笑いして、またサトを一口飲んだ。

「僕たちはこの黒髪黒瞳烙印を持っている限りは避けられないことで、仕方ないと理解したけど、さすがに自分で遭ったらいい気分になりません。

しかし、ダンジョンに着いたら...それもまた一変しました。そこには様々な国の人から集まり、ソアルでも王国でもない異国の人も多いし、ソアルの人でも理解ある人も少なくない。」とここで少し皮肉っぽい笑みを浮かべたスケト。

「そこは、そういう差別とか軽蔑とかを気にする場所じゃないと分かったのです。」


...

そう...

あの言葉を言われたな...


あまり気にするな

過去に囚われる人は意外にそんなに多くない

第一...同じ国だからってお前には背負う罪なんてないんだ

それは国が背負うべきの罰だ...人じゃない

俺たちはお前を歓迎する

まあ...本音でいうと、無意識には嫌悪感がなくもないけどな...


「...そのダンジョンは火山付近で、炎の精霊の【精気】を精製するための精製所、通称プラントを建てる計画がありまして、

そのときの目的はその建設区域にいるモンスターを討伐して壁を作り、建設中に作業を邪魔させないようにその区域周辺の警備と技術者の護衛でした。

要するに、討伐して...利用可能の区域を拡張して、そこでプラントを建てるってことです。

そのプラントはすでに完成して稼働していると聞いています。しかし、今でもそのプラントのエリア外にはモンスターもいますので、冒険者は度々討伐依頼を受けて派遣されます。

このダンジョンの特徴を聞いて、何を特に気をつけないといけないでしょうか...ヴィオ。」とここで質問をし始めたスケト。

「あ、えーと...火山と...炎の精霊がいっぱいいるということは...暑いですよね。」

「その通り...だから今回気をつけなければならないのは、気温が高い場所で仕事をするときの注意点ということです。」と言ってヴィオの方を見た。

「なるほど...だからあのアイテムたちを...」

「そうです。そのための準備です。」

そこで注文した料理が運ばれた。

「ちょっと重い話はここまでしましょう。やっと料理が来ましたし...食べましょうか?」

「は、はい」


そう...

差別とか軽蔑されるのは気にする場所というより、そんな場合じゃないから...

ソアルに派遣されてから2か月間...俺はそこでされた。

係長や部からの詳しい指示もなく、ただそのダンジョンでの現場実務訓練OJTを完遂するということだけ言い渡された。

何回か手紙と伝言を頼んだが、返事が全くない。

指導や相談ところか...悩みの話が話せる人さえもいない...

無論...指導員になってくれる人がいるほど...その現場はそんな余裕はない。

超一流名門ギルドから派遣された俺の扱いはもう経験ありの人と同等になってしまった。とてもじゃないが、いちいち聞くのはやりづらい雰囲気だった。

せめて何かの手紙でも伝言でもいいからと思った俺は結局...何をすればいいかハッキリしないまま、現場の成り行きに流された。

こうして俺はその現場の安全担当になった。

最初はモンスター討伐団に入るというより、安全巡視パトロールの任務を任された。

それはモンスターではなく、技術者や作業員たちがちゃんと手順通りで安全に作業を行っているか確認することだ。

むろん...これも仕事だから、それに全力やった。

初めは気難しい技術者や作業員を相手にして、うまく注意しることができなくて結構大変だっだが、

ある日自分が持っている母国の技師の経験を活かして、壊れた機械を直したことがきっかけで他の技術者や作業員たちと仲良くなった。

そんなアプローチは思い付きもしなかった...さすが独自の進化を遂げた国だと言われたっけ。

それはさておき、それ以来は居心地が徐々によくなった。

次第に自分が言ったことに聞いてくれて、気をつけて仕事に取り組むようになったり、雑談を混じってその人が思っていることとか悩んでいることを知ることでなぜ仕事に集中できないのかなぜ不安全行為をすることになったのか分かってきて、そこから注視するようになった。

それは俺の安全についての視点がすごく広がった。

人との対話を大事にしながら、安全のことを取り組まれる現場づくりをある程度できた。


しかし、安全担当としての仕事は経験できたものの...

相変わらず神官の仕事を結局教えてくれなかった。

というより教える余裕がある人なんていない。

討伐団の人たちも毎日疲れた顔でキャンプに戻った。

到底そこで教えてくださいと言う場合じゃない。

それなら...

教えてくらないなら、その場で自分で盗んで学ぶまでだとある日俺が決めた。

そう...自分でなんとかしないと...

自分だけでの神官のあるべき姿...

つまり...俺は自己流で神官のスキルを学ぶことにした。

放置された分、自由で好きのようにできる。

パトロールの交代で時間が空いているとき、冒険者の神官にお願いして、モンスター討伐の様子を見させてもらった。

たまに運が良かったときは実際にその人の気が向いたときには教えてもらったりもした。

こうして見真似でできたスキルと擬似体験で後にはいくつかのスキルを習得マスターした。

その現場で俺は成長したと実感した。

いろいろ大変だが、OJTであることを忘れるぐらい忙しくて充実した。

神官としても安全担当としても...

そのときは本当にいい経験になって、今でも感謝している。

しかし、本当の悪夢はダンジョンで過ごしたときではなく...帰還した後だった。


任期が終わり、ギルドの所属安全管理部に戻った俺は自分が体験して、思ったことを報告したときだった。

必死に作った報告書がぼろくそダメ出しされた挙句、発表のときは長すぎると言われた。

「こんな長い報告書を読む時間なんてあるわけないよ。もっと重点だけまとめるべきだ。」と言われた。

...

いやいや、長さも時間も誰にも規定とかルールとか言っていくれないし、

あと...発表の本番前に急に1時間できるぐらいの量を15分にしろと言われても...

俺が気づいたことで言いたいことがいっぱいで短くするのはとうてい無理だ。

だから、そのあとは本当に嫌になった。

俺は...何のために2ヶ月誰の助けもされないまま、がむしゃらにやってきたのだろう...と分からなくなってきた。

俺の頑張りも考えも心からの悲鳴も...ここにいる人たちは知らない。

そして、気にもしないんだと...

少なくともそのときの俺はいろいろ知らなさすぎた。

今になっては...

に励まされたおかげでよくなったが...

そうだ。

先輩は今何を...

といけない...ここでまたあの話を思い出してしまってはと気づいたスケトはヴィオに別の話題を言い出した。

心配させてはよくないしな...


「そういえば、お父さんは王国の人ですよね?

何をされているのですか?」と聞かれたヴィオは少し考えてから

「職業は...職人です。ドゥナリアスのアクセサリーや鎧などをモチーフにしたんですけど、あまり売れなくて...

たぶんそれはお母さんを思ったからかと...」

「ほ...」と少し興味がある顔をしたヴィオに対して、何か思い出したヴィオは何かを取り出した。

「これ...母が残した飾りです...形見で持ち歩いています。

見た目はドゥナリアスの伝統的な飾り、簪かんざし。そこには何かの刻印エムブレムが刻まれています。

母は万一のときにこれを使いなさいと言われて、渡されました。

使うとはなんでしょう。」と疑問を思ったヴィオを見て、スケトは

「武器としてでしょうか?」

「確かに万一のときに武器としては使えなくもないですが、それと別な理由があると思います。」

...

少し考え込んだヴィオは逆にスケトに質問をした。

「あの...なんで...スケトさんはこの仕事をすると決めたのですか?ギルドにいるなら、もっと活躍できるじゃないかと...」という突然な質問にスケトはこう言った。

「言語の壁...文化の違い...僕は自分が持っている能力でこの問題...少しでも貢献できないかと思って今のジョブを選びました。もちろんギルドに所属したら、もっと稼げると思いますが、それは...」

それは全部嘘じゃないけど...ギルドに...か

とここで話題を逸らしたスケトは別の話題を持ち掛けた。

「料理も堪能できたし...では、次に進みますか?」

「何をするのですか?」

「もちろん...ヴィオのためにあるものを用意してもらいました。」

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