歓迎会

ねえ...待って!

...

行かないで!

ずっと謝りたかったんだ...

あのは...本当にごめん...

これは夢だと分かっている。それでも言いたかったんだ。

正直...目覚めなんてしたくない。

現実に戻りたくなんかない!

がいない現実世界なんて...

いっそう...このまま目覚めなくてもいいから、夢のままでいい...

どうか...

どうかお願いします!

どうか...カ...ミ...

とここで目が覚めてしまった。


重い瞼を開けようとして、やっと開けたと思ったときに見た光景...

いつもの天井...

いつもの部屋...

そして、いつもの後味が悪い夢...


ああ...またこの夢か...

寝不足が重ねて、さらにこんな夢を見て、気分が良いわけがない...

それでも...仕事には行かないといけない。

これは現実だ。

いや、これも...現実だ。

は...しんどい...と深くため息をした後、俺は目が覚めた以上、今日のことを考える。

さてと...どうすれば今日の一日をか...

と手の甲を見ながらそのようなことを考えた俺は自分に言い聞かせたように小さな声で呟いた。

「やはりが消えなかった...俺は今日も...しまった...か。」

それから俺はいつものように支度をして、部屋を出て行った。


...

その先日

テリー冒険案内所クダンスター支店


無事に研修生として迎えられたヴィオ・カミサカは今、スケトと一緒に案内所のメンバーに挨拶をし回っている。

「この案内所はメンバー全員が揃っていることはあまりなくて、大体業務で外出中だったり...シフトで出勤時間がすれ違ったりするので、今案内所にいる方だけでも挨拶しましょうか?」とスケトはヴィオに説明をした。

「はい!分かりました。」とヴィオは真面目に強く頷いた。


この案内所に在籍しているダンジョン案内人や通訳などの冒険のサポートをする従業員は様々な国からこの王国にやってきて、この国に滞在している。

スケトがこの国に来た最初の目的である短期的な留学のために来る人もいたら、何年もこの王国に住んでいる長期滞在の人もいる。

その人たちは皆それぞれの目的があり、それぞれの人生がある。


現在の王国の位置から世界地図っぽく表してみると、

王国を中心にして東の方向には大国の「アニック」...

そして、その大国からやや下に位置する王国に接する隣国「マンテイヴ」...

さらに海の向こうにある諸島の国「アイセノドニー」と逆に西の方向に海の向こうにある海の覇者「シティーブ」

様々な国からこの国に来て、様々な理由でこの国にとどまる...

もちろんこの世界では俺でも聞いたことない...行ったことない国もたくさんある。

あくまでこの王国との交流があり、滞在人口的に多い国の一部を例として挙げるしかできないんだ。

その中には、俺の故郷「ドゥナリアス」の隣国である「ソアル」も含まれている。

個人的にもがある場所だから、仕事を引き受けたことも何かの縁だとも思う。

それはそれでにして、今はヴィオのことを考えよう。


この日案内所にいるメンバー全員にひとまず自己紹介した後、その中の誰かがあることを言い出した。

「自己紹介が終わったところで...【歓迎会】でしょ!」

その言葉を待っていましたかのように次に別の人の声も答えるように

「そうそう!歓迎会をしようヨ!」

「賛成!」

「いいネ!」

「あと少しで終業時間ワークタイムオーバーだし...スケットさんもどうですか?」という質問は俺まで来た。

俺はヴィオのことを見て、ヴィオも俺の方を見ている。

少しの間考えた後、その結果を笑顔で答えた。

「はい...僕もぜひ参加します。」

「その言葉を待っていました!」とここで突然この案内所の受付嬢...ミュウ・ロングパインさんが現れて、皆にそのメガネの裏に映るキラキラした目でこう言った。

「では...仕事が終わったら、いつもの店で合流しましょう...すでに予約済みです!」


あ...やはりテンションは高い...

歓迎会の話になると、いつもミュウさんが仕切るということは彼女の責務と化している。

仕事のときもそうだが、いつもそのスピーディーな対応には感心するな...たぶんヴィオが今日面談に来ることを知ったすぐに店の予約を済ませておいたよな...正直これは歓迎会にならなくても、ただのお疲れ様会でやるつもりだ...やれやれ。


その後は就業時間が終了することを待ち、他の人の流れに任せて、案内所から一番近い酒場に入った。

値段は格安だが、中々コスパがいいというポイントからこの店を歓迎会をやる定番の店になった。


賑わった店内...他の客の声も混ざり、盛り上がっている雰囲気の中で、酒場には慣れていなく...さらに歓迎会のことを全く知らない一人の少女、ヴィオは不安な顔をしている。

他の参加者が次々と決まった注文に対して、自分は何をすればいいか分からないヴィオの様子を見た俺は質問をした。

「中々決められないようですね。どうしたのですか?」

「私...こういう宴会には初めて。いつもなら、いつもの仲間と食事をするぐらいしか酒場に入ることがなくて...お酒自体も今までは皆が飲んでいて、私自身は全然飲んだことがないから...何から頼めばいいか分からなくて。」という彼女の本心を聞いた俺は助言をした。

「大丈夫です。一応王国の法律ではヴィオの年齢は飲酒が可能ですけど...別に飲まなくてもいいですし。さらに今日の【主賓】はあなたです。遠慮は要りません。好きのようにしてくださいね。嫌な気持ちで飲んでも楽しくないでしょう?」と安心させようとした後、さらに言葉を加えた。

「ここで、あるどこかの誰かが言っていた言葉を紹介します...『私は酒のお味を好みませんが、酒を楽しむ雰囲気を好みます。』ってね...」


そう...

酒が強いとか弱いとか関係なく、飲める人も飲めない人...酒が好きな人も苦手な人も、みんなで楽しめるのは一番だ。

昔の俺はこんなことが言えるのか...とは別の話にしよう。

今はヴィオを前向きな気持ちにさせるのは先だ。


「楽しむ...ですか?分かりました。私が楽しまなければ、せっかく来てくれた他の人にも申し訳ないです。やってみます!あと、お酒にはスケトさんのおすすめが聞きたいです。」と少し元気になった彼女の顔を見ながら、質問されたことを答えた。

「酒が初めてなら、エールかミードは定番でおすすめですね。エールは飲みやすさが売りで、ミードは蜂蜜の味で甘くて女性の中で人気です。他には葡萄酒のワインや蒸留酒もありますが、度数が高いので、あまりおすすめできません。」という説明をした俺を見て、ヴィオはなんだか感心の目をした。

「詳しい...ですね。」という彼女の言葉に、俺はただいつもの顔でこう言った。

「まあ...伊達にこの国に長居したわけじゃないので、と言ってもなんでも知っているわけじゃないですよ...では、少し参考になりましたか?」

ヴィオは少し考え込んで、決意の眼差しを見せた。

「じゃ...甘いのがいいです。」

「ミードですかね?分かりました。ちなみに見たことがあるかもしれませんが、僕たちの故郷では【サト】という独特な酒もあって、米から作られた色が濁る酒で、それも面白い味ですよ。次回にはそれが飲める店に案内でもしましょうかね。」と一回ヴィオに優しく笑って、ヴィオが決めた注文と共に自分の注文を伝えた。


それから飲み物と共に食べ物が運ばれてきた。

皆の飲み物が揃ったことを確認した後、支店長のリトルマーシュさんはマグカップを手に取って、音頭を取った。


「この王国では今多様性を求めて、様々な国の人々を歓迎しています。しかし、誰でもこの国の制度に適応できるというわけではなく、文化や言語の違いという壁があったことでこの国での生活に苦しんでいる人もたくさんいます。冒険者になりたい人だけではなく、一般の職業ジョブに就く人もです。そのため...うちにはその人たちとの架け橋になれる人材を集めて、より安全で快適な冒険...そして生活が送れるように全力でサポートする。それはここにいる皆さんです。何度も言いましたが、皆さんには心から感謝しています。そして、今日は新しい仲間を迎えたこの機会で使って、少し親睦が深めることができれば何よりです。長い話になりますが、ヴィオさん...ようこそうちの案内所へ...あなたのような人材を歓迎いたします。どうぞ楽しんでください。他の皆さんも...明日の仕事に支障が出ない程度に...楽しんでください。」と堅苦しい挨拶が終わった途端、待ちくたびれたかのように人から声が上がった。


「乾杯!」

「カンペー!」

「お疲れ様デス!」


マグカップのぶつかる音が鳴り終わったとき、歓迎会という名のが始まった。

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