面接

ナパジュ王国の首都、ティアオーク

この王都の片隅にあるテリー冒険案内所クダンスター支店


先ほど新しい研修生が入ってくるという知らせをした直後、支店長のリトルマーシュという男はスケトを呼び出して、ヴィオ・カミサカと一緒に別の部屋に入った。

部屋の中には長いテーブルが中央に置いてあり、6人分の椅子に囲まれた。

そこでリトルマーシュはテーブルの入り口から近い側の一番奥の席に座って、次はスケトは同じ側で間を空けた形で椅子に座った。


「では、カミサカさん...そちらの席にお座り下さい。」とリトルマーシュがヴィオに声を掛けた。

「は、はい。」とヴィオは少し緊張した声で答えて、席に座った。

「これからお客さんとの会議や面談に参加するなどの機会が多くなると思いますので、一つのマナーとして教えると...お客様の席は入り口から奥側の席になります。つまり、ヴィオさんが座っている側です。さらに、一番入り口から遠い席の順から相手もうちも立場的に高い方が座るという順番になります。役職とギルド在籍歴と年齢からの順番です。うちのお客さんは大抵ギルドメンバーの人が少ないので、基本的に年齢から判断しても構いません。あくまでうちの基準ですが、覚えていただければ、少し今後には役に立つかもしれません。なにせよよろしく頼みますね。」と説明したリトルマーシュだった。

「はい...ありがとうございます。失礼なことがないように気をつけます。」とかしこまったように返事したヴィオに対して、スケトは少し表情を柔らかくして説明を補足した。

「そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。お客さんと言っても依頼人で、異国の方も多いし、相手もこの国のマナーについては理解がある程度持つと思いますが、それ以前には異国の文化への尊重も持っているはずです。最低限のマナーで接すれば問題がないはず。万一何があればフォローしますから...」と言ったスケトには説得力を感じ、ヴィオも少し肩が軽くなった感じで顔の緊張が和らいだ。

「その通りです...これはあくまでこの王国の文化であり、異国の方にそれを教えることも私たちの義務でありながら、相手に押し付けるつもりではありません。少しずつ学んでいただければと思います。」とまだ表情が固いリトルマーシュがさらに言葉を追加した。

「あ、ありがとうございます。」と御礼を言ったヴィオ。


この人...最初に会ったときは怖い人かと思ったけど、実際には優しい...のかな?とヴィオはさっきまで自分が受けた面接のことを思い出した。


...時を遡って、別の面談室内


「では、ヴィオ・カミサカさん...なぜうちで働きたいのか志望動機を教えていただけますか?」

とよく就職の面接に聞かれた質問が出てきた。

面談室の構造は今の部屋と同じだが、面接官であるリトルマーシュとヴィオは面を向かって座っていた。

相手は、見た目からきちんと服装を着こなして、あまり笑わないせいかかなりの圧力を感じた。

質問されたヴィオは緊張しているのか...すぐに答えられなかった。

しばらくの沈黙が続いた後、リトルマーシュはメガネの位置を直して、こう言った。

「書類は読ませていただきました。カミサカさん...あなたの言語力のテスト結果には問題がありません。後は経験を積めば通訳にはなれると思います。腕前の件もスケトくんから聞きました。彼が言うにはあなたの腕前は彼が保証するぐらいらしいですね。しかし、ハッキリ言って、あなたの性格はその能力を台無しにしています。あなたの人格を否定とか差別するつもりは全くありません。あなたの性格にはより合うジョブが存在するかと思います。だからこそ、逆に興味を持っているのですよ。ここであなたをどう活用すればいいかに繋がります。だからもう一度聞きます...なぜギルドではなく?」という問い詰めにヴィオはさらに落ち込んで、顔を上げられなかった。


私はいつもそうだ

そう...

いつも仲間の意見に流されて、何も言わないまま、黙ったままでただ付いていく...

それは私だった

こんな性格で案内人どころか...ろくに通訳が務めるのか...自分でも分かっている...

自信がない

でも...

それが変えたくて...スケトさんに頼んだじゃないのか...


そう...

私は変わりたい...

簡単ではないのは分かっている...

しかし、ここは第一歩なんだ!

仲間もスケトさんもここにいない...ここには私と面接官しかない...

思い出して...私

あの前の戦いでみんなが倒れて、私が一人だけ残ったとき...

あのデカイ百足との戦いに挑もうとした時に感じた...あの感覚

そのときに感じた自分の【本性】を...


もっと大胆に...例えそれが無謀でも

もっと自信たっぷりで...例えそれが間違いだとしても

もっと自分を素直に聞いて...例えそれがわがままだと言われても

もっと自分に正直に...なって...いや、なれ...私!


そこでヴィオは顔を上げて、さっきとは全く違う真剣な表情でリトルマーシュの質問に答えた。

「私は自分がこの王国とドゥナリアスの両方の言語と文化の相互理解の持ち主で、それを活かして架け橋の役割になりたい...そのようなお仕事がしたいです。特に自分も体験したことのように冒険は危険を冒すということだからこそ、より安全で皆さんが無事にダンジョンから戻ることをサポートするダンジョン案内人の仕事にはまだ未熟の私自身にとって、もっといろんなことが勉強できるではないかと思います。それと同時に通訳の仕事もできるという点は自分が目指している目標...ある人に近づけるために...そして、なりたい自分になれるためにはこのジョブは自分の能力が一番発揮できるジョブだと思います。」と答えたヴィオの声には自信が込められている。目もそらずにリトルマーシュの目を見て、ちゃんと自分の考えが述べられた。

それを聞いたリトルマーシュは少し目を閉じて何かを考えてから、立ち上げた。そして、目をゆっくり開けてこう言った。


「分かりました。あなたの熱意は私に伝わりました。私も結構面接官をやってきたのですが、目を見ればその人の中にある本気が感じられます。あなたの場合は、何もないところから突然...炎が燃え上がるように自分の決心がついたと感じました。これで面接が終わります。」と言って、リトルマーシュは入り口の扉を開けた。

「まだ通訳のテストは残っていますが、あなたには見込みがあるということで研修生として仮採用をさせていただきます。では、付いてきてください。歓迎します。」

「は...はい!」と言って、ヴィオは面談室を出て、皆の前に自己紹介された。


自分の気持ちが相手に伝わったみたい...よかった...

あとは...通訳の能力を試すことになっている

やはり、スケトさんが同席するのね...

緊張するな...

でも、これも一つの試練だ。

スケトさんにも見せたい...


私の今の気持ちを...


これから変わりたい...私を...

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