研修生
「ダンジョン案内人の1日密着...ですか?」
という唐突な言葉に対して、驚きが隠さなかったのは、休憩室から戻ったダンジョン案内人兼通訳、スケト・タチバナだった。
「はい!この度は王都の新聞社からぜひうちの案内所のことを取材したいと言われました。そして!スケトさんが指名されましたので、うちとしては積極的にお引き受けしたいのですが...さすがに急すぎますかね。」とスケトに事情を説明したのはこのテリー冒険案内所クダンスター支店の受付嬢であるミュウ・ロングパイン。
ナパジュ王国の国民の大半を占める金色の髪のショートの髪型と青色の瞳をしている彼女は自分が掛けている眼鏡の位置を直して、さらに説明を加えた。
「取材するのは【プロフェッショナルスタイル】のコーナーで新聞の1ページぐらい記事が埋まるほどの大人気特集コーナーです!これが機会に宣伝するチャンスが滅多にないので、ぜひお願いしたいですけど...さすがに急すぎますね。」と落ち込んだ表情を見せたミュウに対して、スケトはなんだか察したようにため息をついて、彼女の顔を見て、微笑みを見せてこう返事した。
「テリーさんというか、ここの宣伝になるためなら、ぜひ引き受けさせていただきます。」と言った途端、相手の彼女は満面な笑顔を見せた。
「スケトさんなら、オーケーをしてくれると信じました。すでにスケジュールを入れておいたので、後は微調整だけです。」
「あ...はい...」と内心では二つのことを考えたスケト。
ああ...めんどくさいな。こういう仕事はずっと作り笑いで顔が引きつりそうだ...
というか...完全に俺がノーと言わないと分かりながら、要望を言ってくるんじゃん...ミュウさんっておっかねーな...その眼鏡と笑顔の裏にはなんか触れてはいけない何かを感じたわという考えたことを内心にしまったまま、スケトは次のように話した。
「あ、すみません...ミュウさん。それとは別の話になっていますけど...ちょっと相談がありまして...前に少し話した件で」と何か思い出して、別の話題に変えたが、ミュウはまた笑顔でこう返事した。
「あ...例の子の件ですね。すでに支店長との面談を調整しましたので、ついさっき彼女を案内して、今は支店長の部屋で面談をしているはずです。」と言って、また驚きが隠せない表情を誤魔化そうと苦笑いをしたスケト。
「さ...さすがミュウさん...仕事は早いっすね。」
って、今のところは面談中か...とスケトは上の天井を見て、前のことを思い出そうとした。
...
「スケトさんが働いている案内所で私も働かせてください!」と突然なことを言われて、スケトは驚いた。
「僕の働き先の案内所で働きたいということですか?」と念のために確認したが、目の前にいる盗賊の女、ヴィオ・カミサカは強く頷いた。
「もしよろしければ、理由を聞かせてもらえますか?」とスケトは真面目な表情で再び質問をした。その真顔に対して、ヴィオは少し緊張してきて、言おうとした言葉を頭の中に整理して、ようやく口に出した。
「私...アマティサに帰って、今の仲間と一緒に経験を積むことも考えたのですけど、それじゃ私は盗賊というジョブのままでこれからも冒険を続けるということだと思ったとき、今日あの巨大モンスターに挑んだときを思い出したんです。自分は盗賊なんかじゃない...私にはより適合するジョブがあると自覚したんです。スケトさんなら、そのジョブになるためにどのようなことが必要なのか分かるかと思って、とりあえず見習いでもいいので、雑務でも掃除でもします!私に合うジョブになれるまでしばらくそばにいさせてください!」と彼女は頭を下げた。最後の言葉はまるでプロポーズのような言葉だったが、内容の方だけを読み取って理解したスケトは優しい笑みを見せて、ヴィオに話した。
「顔を上げてください。ここでは私たちの故郷みたいに頭を下げる習慣がないので、周りの人が驚きます。事情については分かりました。僕はヴィオが言っていた自分により適合するジョブについては詳しくありませんが、心当たりがあります。これもまたあなたの冒険をサポートする任務の一環です。それについては了解しました。もちろん料金は取りません。それまでは案内所で働きたいという話は僕だけでは判断できませんので、支店長と話してみますね。」と言ったスケトに対して、ヴィオは顔を上げて純粋な笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!私...ふつつかの者ですが、何卒よろしくお願いいたします。」とスケトに御礼と共に一回お辞儀をした。
「はは...その言葉は大抵嫁ぐときに旦那さんに言うセリフですよ。今の話では勘違いしちゃいますよ。」と少しヴィオにからかったように話したスケト。その言葉に対して、ヴィオの顔が耳まで赤くなってしまった。
...
確かにヴィオはドゥナリアスとここのハーフなので、言語力に関しては大丈夫だと思うが...彼女の性格から見て、少し心配だ...まずはあの支店長との面談で大丈夫かな...と思ったとき、上の階の扉が開けた音が聞こえた。そして、上から階段に降りた足音を聞くと、2人だ。
階段を降りたのはヴィオともう一人の男性、このテリー冒険案内所クダンスター支店の支店長である【リトルマーシュ】さんだ。
その堅いスーツの姿と黒くて太い縁の眼鏡をしているこの人はその見た目の通りに超が付くほど真面目である。
「みんな、ちょっといいかな?座ったままでもいいよ。今日から新しく入ったメンバーを紹介するね。」と言って、彼は隣にいるヴィオを目線と人を紹介するハンドサインをした。
「ヴィオ・カミサカさんだ。彼女はスケトくんと同じドゥナリアス語担当になるが、今は研修生としてここの仕事を学びながら、私たちの戦力になれるように頑張ってもらうつもりなので、皆さんからの指導もよろしくね。では、ちょっと挨拶してくれないかな?」とヴィオに自己紹介をするように促した。
「えーと...始めまして。ヴィオ・紫・カミサカと申します。未熟な者ですが、この冒険案内所で一日も早く活躍できるように頑張りますので、ご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」と言って、一度お辞儀をした。
そこにいる人から歓迎の拍手の後、ようやく彼女の緊張した表情が少し和らげた。
そうか...少なくとも研修生になることは無事にクリアしたか...
よかった...とスケトまで安堵した表情になった。
しかし、自己紹介も堅いな...と内心に思ったスケトだった。
【研修生】か
その言葉自体には懐かしいな...
この国に初めてきたときって、俺も研修生だった。
最初に入ろうとしたのは王国で一番有名な大学だ。
そこで試験を受けて、第一希望の機械に関する研究科に入ることで、技術を学ぶ...その予定だった。
しかし、うまくいかなかった。
言葉の壁...
軽蔑された目線...
文化の違い...
そして、この敗者の烙印への不平等な扱い
俺も頑張った。
だが、いくつかの理不尽を耐えながら、頑張っても頑張っても超えられない...なれないことが何をしても変わらない。
それは俺が王国出身じゃないということだ...
ここに入ることができる人はもはや何も気にしない飛び抜けた天才か完全に空気を読まないバカしかない。
そのときだった。
神官になるきっかけと出会ったのは...
そう...
それはまるで奇跡だとあのときの俺はそう信じた。
...
「スケトくん...早速だが、ヴィオさんの通訳の能力を試したいので、君の協力が必要だ。今から大丈夫かな?」と支店長のリトルマーシュがスケトに話しかけた。
「はい!大丈夫ですよ。」
とりあえず第一関門を突破した...
どのように支店長と話すか後で聞くとしよう。
次の関門は...通訳能力の試験だ。
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