冒険災害・事故報告書
ある場所のある部屋の中に二人の人物がいる。
片方は椅子に座っており、デスクの上に肘を置いている。
片方はデスクの向こう側にただ立ち尽くしている。
座っている人物は何かの紙を手に持って、内容を確認しているのか無言で読んでいる。
その紙に書いてある内容は以下の通りになっている。
【冒険災害・事故報告書】
事象分類:不休災害(入院不要)
受傷程度:パーティ全滅に近い状態
日付:王国歴XXX年△△月○○日
場所:アフカダ地区都営地下ダンジョン
天気:晴れ(地下ダンジョンに入牢するため、無関係)
事象:
事象①
冒険者Aはトラップが仕掛けられた床(地下1階)を手順の通りに踏まず、むやみに進んだため、トラップが発動した。結果として、冒険者Bはトラップの矢により受傷をして、毒のバステになった。後ほど消毒液で治療を行ったため、冒険再開。
事象②
冒険者Aが勝手に一人でダンジョン内に進んだため、パーティメンバーが追いついたときにはすでにハイレベルモンスター、ジャイアント
受傷者(受傷の詳細)
冒険者A:壁にぶつけられ、衝突による打撲+一時の意識朦朧
冒険者B:事象①かすり傷+毒、事象②腹部で深い切創(牙)+出血+毒(*)
冒険者C:胸部で切創(足の刃)+出血+毒(*)
冒険者D:外傷なし。疲労による意識朦朧
(*)救出されたときは回復・治療済み
原因
人的要因:
経験不足、、手順不厳守、一人判断、プロ意識不足
物理的要因:
装備不適切、必要なスキル未取得
管理的要因:
パーティリーダーの未決定のため、指揮権が不明確
パーティの安全衛生管理責任者である神官は自覚が浅いため、役目が全うできなかった
対策・改善提案
①人的:再教育及び低レベルの実戦の実施で経験を積むこと
②物理的:自分のジョブに合う最適な防具の選定、冒険計画の段階で必要なスキルをあぶり出し、必要に応じて取得すること
③管理的:パーティのリーダーの選定と指揮・命令系統の明確化、選定された安全衛生管理責任者の役務に全うさせること。
以上
その報告書を読み終わった人物は向こう側に立っているもう一人の人物に話し始めた。
「ご苦労だった。これで冒険基準監督に提出するための書類ができた。君には苦労を掛けたな。特にあの戦士の子には...」と言って、聞いている相手はこう答えた。
「報告書としての最低限の情報が入っています。もしより詳細が分かりたければ、ここに数十枚の詳細が書いてある書類があります。文言全て記録したので、もしお時間があれば」と言いかけたときに話が割ってきた。
「それは遠慮するよ。でも、正直に言って、君なら簡単に対応できる案件だから、任せたんだ。」
「そうですね...ほぼパーティメンバーの各人の言動から行動パターンを推測した結果、ほぼの展開は想定内でした。」となんかすごいことをただ淡々に述べた相手。
「さすがだね。あの戦士の子はアマティサではかなり富豪の一人息子だからさ...今回の件で学習できたらいいんだが...そちらのお父様とは縁があってね。バカ息子の面倒を見てやれと頼まれたんだ。どちらにせよ、うちに訪れなくてもこのサービスを持ちかけるつもりだったよ。うちに訪れたことは逆に都合のいい誤算だったな。今回の予想外があるとすればたぶん...君が言っていたあのほぼ想定内からのわずかな想定外のことと同じことだろう。」
「その通りです。最大の予想外はこのパーティに入ったカミサカさんです。そのおかげで僕は都合良く雇われたことになったのですが、何より驚いたのは彼女の中に眠る才能です。それを磨けば...」
「あ...ここの就業時間以外ならそれは君の自由だ。好きにすれば良いよ。しかし...こんなに都合良くハイレベルモンスターが出現するとは少し不自然だな...まさかと思うが、君が何かをしたとかは...」
「まさか...ただの偶然ですよ。」と話した人は微笑んで、次に述べた。
「でも、これも絶好のチャンスでした。滅多にない緊張感があるこの出来事に乗り越えることができれば、パーティ内の親密度も経験も高く上がることに期待できますので、なにせよ僕が同行したし、安全は保証されます。」
「それはいいんだが、この報告書を読んだ限り、君が主張したいことはやはり物理的と管理的な要因より、人的な要因が一番影響が大きいといつもの見解だね。特にこのプロ意識というのは逆にここまで気にする理由については聞きたいね」ととっくに分かったことを改めて聞いた感じで質問をした。
「初心者だからこそ、この安全意識をしっかり持っていかないと、だんだん経験と自信により、意識が慢心によって警戒心と共に薄れていきます。手順の通りに進まなくても大丈夫またはこれぐらいなら大丈夫だという我流ができてしまい、後で痛い目に遭います。どちらかというと、ド素人とベテランの中では冒険中の災害発生率が高いのはベテランの方ですから。」と言って、さらに説明を加えた。
「危険を本当に体験させないと、そのような安全意識は生まれない。今回の目的は死への恐怖と危機感を意識させるためでもあります。多少痛みに伴っても、これは冒険の危険性を実感させるためにです。逆に仲間への信頼が増えて、本当の絆が深まることも確認できました。危機を体感して、自分の成長の早さが急速する...命とのやりとりだからこそ得た教訓です。いわゆるこれは冒険とはどれほど危険か疑似体験させるための計画の一部とも呼べます。」という話を聞いた座っている人は拍手し始めた。
「さすが!百戦錬磨の元神官の言うことは説得力がすごいね...その経験を今のダンジョン案内人というジョブに活かして、より安全な冒険が提供できるようになったのも君のおかげだ。君だから、この案件が任せた。礼を言うぞ。」と感謝の言葉を述べた後はさらに相手を賞賛した。
「かつてあのスリースピアーズで魔王討伐団の一員として、誰にも死なせたことがないと言われた伝説のヒーラー、【スケト・タチバナ】。4年前に王都から姿を消したが、まさか本人がここで働くとは最初のときには驚いたよ...」という言葉に対して、自分の名前が呼ばれたスケト・タチバナはただ少し困ったような苦笑をして、こう返事した。
「よしてください。それはただの風の噂ですよ。僕はそんな英雄みたいな人なんかじゃない。なりたくもない...僕はただ、この【冒険という名のくだらないビジネス】のせいで命を落とした人がこれ以上見たくないだけです。例え偽善だと言われたとしても、僕は僕のやり方であらがいます。」
「そうか...君がここにいて助かったのは事実だ。過去とかは関係ない。今日はお疲れ様。」と言って、スケトは一回お辞儀して、その部屋を出た。
同時に彼の顔から笑顔が消えた。
そう...
俺がずっと何年前から遭難信号を出しても誰にも気づいてくれない
俺はすでに限界に達しても誰にも気にかけてくれないあの
今は平気に見えるけど、実際はこのバステで毎日不安と戦いながら過ごしてきたことになったことも...
例え、気づいたとしても誰にも助けの手を差し伸べてくれないこの残酷で、冷酷な社会に俺のような【弱者】なんて要らない存在だ。
だから...
僕は...俺は自分のやり方であらがい続ける。
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