安全(命)第一
地下ダンジョン第1層
トラップゾーンにつながる通路の次に広がった空間
薄暗い中に照らされた光の球と火に付いたたいまつで姿を見せたのは巨大モンスターだった。
【ジャイアント
希に出現すると言われたハイレベルモンスターはまさに今冒険者たちの前に現れた。
あの凶暴そうな顔が光の球が放った光で確認できた瞬間、その場所にいる全員の動きが止まった。
第1層から突然ハイレベルモンスターの出現という想定外の出来事に対して、全員が困惑している。
案内人兼通訳以外には...
「一旦避難してください!」と叫んだのはスケトだった。
しかし、先に行った冒険者の3人は目の前にある恐怖のあまりに動きが止まったままだった。
そこでスケトは口調を変えて、もう一度叫んだ。
「今すぐ逃げろ!」と発した言葉が届いて、身動きが取れたように動き出したのは魔法使いの男と神官の男。しかし、戦士の男はまだあの巨大モンスターの前に剣を構えながら、ただ立ったままだった。
「俺なら...できる...こいつ...俺一人で倒す!」と言い出した後、あの巨大モンスターに向かって、走った。
「...あのバカ!」
と言って、スケトの方に走り逃げた魔法使いの男は振り向いて、木の杖を構えた。
「炎の精霊よ!我の下に集い、力を貸してたまえ!」という呪文を唱えて、杖の上に現した火の玉ができて、「は!」という発声と共にその火の玉が発射され、巨大ムカデの体に直撃した。
「あのモンスターの弱点は火じゃない!こっちに来い!」とスケトはまた命令口調で叫んだ。
しかし、遅かった。
あの巨大モンスターは直撃された火の玉のダメージを感じず、逆に居場所が特定された魔法使いの男の方向に見て、早いスピードで体を伸ばした。
いつの間にか接近してきた敵に身の構えが間に合わず、魔法使いの男は巨大ムカデの牙の攻撃を真っ正面から受けた。
避けきれなかった。
その牙が魔法使いの男の胴体を切りつけ、深い傷を負わせた。
倒れた魔法使いの男を見て、他の仲間は動揺し始めた。
神官の男は思わず大きく口を開き、倒れた仲間のところに駆けつけようとしたが、スケトに止められた。
「駄目です!アイツの牙は毒を持っています!キュアが使えないあなたが行っても助けられません!」と言ったスケトに、「でも!」と言って悔しそうな顔をした神官の男。
その間、また悲鳴が聞こえてきた。
その方向を見ると、戦士の男はぶっ飛ばされて、激しく壁に衝突した。
そのまま、気絶したようだ。
倒れた仲間が2人になった現状を見て、神官の男は動かずにいられなかった。
結局戦士の男が倒れた場所に必死で駆けつけた結果、待ち受けた巨大ムカデの足に付いた鋭い刃に切りつけられ、途中で倒れ込んだ。
「全く...言うことを聞かないお客さんですね...」と目の前にある状況を見ても、まだ文句を言えるスケト。
そこで、ずっと後ろの方に立ち尽くしていた盗賊のヴィオは何かを言い始めた。
「スケトさん...さっき私に言った言葉を覚えていますか?」と突然質問を投げた。
「さあ...どんな話でしょう?」ととぼけたスケトはヴィオの方に振り向いて、彼女の目を見た瞬間、何かを決心したあの瞳に先ほどの態度を改めた。
「失礼...確かに僕はあなたが盗賊に向いていないと言いましたね。」と述べたスケトに対して、彼女はある言葉を口にした。
「あなたの言う通りです...あたし、盗賊ではありません...」と言ってから、彼女が動き出した。
「倒れたみんなの避難を頼みます。」
急速にスピードを上げて、あの巨大なモンスターに接近したヴィオは手始めに小さなナイフ、それは小型の短剣、シュリケンだった。
ダメージを与えないが、こちらの方向に意識させられた巨大ムカデはヴィオの方を見つめて、刃の足を彼女に振りかざした。
その攻撃は彼女を切り裂くほどの威力のはずだった。
しかし、切り裂かれるあの姿が消えて、気づいたらその振りかざした足の隣にいつの間にか立っていた。
間一髪に避けたというより、まるで残像を攻撃したみたいだ。
そう...
ヴィオ・カミサカのジョブは【盗賊】ではなく、別のジョブ...
そして、特殊のジョブだった。
カミサカ流忍法!
術式その
そして、彼女が速やかに両手に持っているダガーで、その足の甲殻の隙間を狙って、素早い動きで切り裂いた。
カミサカ流忍法!
その結果、一つの足が切られた巨大ムカデだったが、悲鳴を上げずに次の攻撃を仕掛けた。
あの口から、突然緑色液体が噴射され、霧状でヴィオを浴びさせた。
それは【毒】のバステを与える攻撃だった。
あの巨大モンスターはじっと霧が消えたタイミングを見計らい、獲物の仕留めるように待っていた。
霧が消えて、ヴィオだと思われる影が確認できた瞬間、巨大ムカデの牙があの姿に接近した。
しかし、目の前にあるのはヴィオの上着を着せた丸太だった。
カミサカ流忍法!
術式その
身代わりの術!
気が付くと、ヴィオはあの巨大の頭の上に乗り、また甲殻の隙間を狙って、ダガーを構えてから一気に切り下ろした。
致命傷を負わせるつもりだったが、やはりダガーの長さでは浅かった。
そして、巨大ムカデは激しく頭を振り、自分の頭の上に乗っている敵を振り落とそうとした。
しばらくしがみついたが、巨大のモンスターの力に勝てず、ヴィオは力を尽き、地面に落ちた。
とそこで、彼女が地面直撃する寸前で見事に拾ったのは他の誰でもなく、ダンジョン案内人兼通訳のスケトだった。
彼は素早く安全な距離を保ったところまで後退して、ヴィオを下ろした。
そして、彼女の顔を見て、呆れそうな顔で話し始めた。
「本当に...口で言うより、行動で示すこともドゥナリアスの人の国民性ですかね。無口の君もここまで行動させるのは仲間への思いですか。」
「スケトさん...皆は...」と力が尽きそうな顔で問いかけたヴィオに対して、笑顔で返したスケト。
「魔法使いのお客さんと神官のお客さんはこっちまで避難させました。戦士のお客さんはもともと遠い場所まで飛ばされたので、まだ避難が完了しませんが、あなたがモンスターの気を引いた間ではそれ以上攻撃を受けていません。これから救助に行きます。」と仲間の安否を言われてから、少し安堵の表情になったヴィオ。
そこで、スケトは表情を変えて、真剣な顔でヴィオにこう言った。
「仲間を思うのは大変素敵なことだ...だが、敵の力と自分の力を見極めないで挑むのは愚行だ。自殺行為とも言える。自分の命を簡単に捨てるような真似を二度としないで!何より大事にしろ!」というきつい言葉を口にしたスケト。ヴィオは反論できず、ただ聞くことしかできなかった。
「君に言えることが一つ...適当に生きるんだ。一生懸命ではなくても...生きているだけで十分だ...分かった?」
そう...
たとえ出世しなくても...
たとえ魔王を討伐した勇者一行ではなくても...
そう...たとえ有能なヒーラーではなくても
それでも生き続けるんだ...という思いはスケトが口にしなかった。
ただ次のように述べただけ...
「この蘇生魔法が存在しない世界では、死に対する重さに理解した者と実感が湧かない者がいる。死んだら、全てが終わりなんだ...だから、自分の命は一番最優先で、たとえ仲間でも逃げるときは迷わずに自分のことだけを考えて。いいですかね?お客さん...」と言う真剣な話を口にしたスケトに対し、ヴィオは自分の無力さと不甲斐なさをかみしめながら、ただうなずくしかできなかった。
「お客さんも毒のバステでやられたので、しばらく安静してください。」と言われて、スケトの手から光りが現れた。それは神官特有の魔法スキル、キュアだった。
「ヨシ...消毒完了...」
そして、スケトはヴィオに笑顔で次のように言葉を口にした。
「安心してください...あなたたちの命の危機が迫る場合、全力でお守りいたしますと契約に書いたので、ここからは私が...いいえ、俺が...守ってみせる!」という言葉を放って、スケトは立ち上がった。
ダンジョン案内人兼通訳...お客さんを守るために一人で巨大なハイレベルモンスターに挑む。
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