イフカダ地区

王都のクダンスター地区から徒歩で1時間かかって、たどり着いた【イフカダ地区】

王都の中には治安があまりよくないという噂がされた地区の影響で貧民街と化した。

ここでは、王都内の地下ダンジョンが唯一残されている。

正確に言うと、ダンジョン内のモンスターを一掃するためには手間がかかったため、そのまま放置されたらしい。基本的に入り口が封印された。

そのため、利用する人は管理人から鍵を借りることを申し込み、台帳に誰が借りるか記入して、借りた鍵で封印を解いてから入れるという管理方法である。


これもスケト・タチバナというがイフカダ地区に向かっている途中で4人の冒険者たちに解説をしたことで分かったことだった。

「今日はすでに夜が近づきますので、たぶん管理人さんもうちに帰ったかと思います。今日は宿泊する必要があります。ダンジョン自体は貧民街の中にありますので、その周辺には宿がありません。そのため、貧民街に入る前に宿屋がいくつかあります。僕のおすすめの宿屋は値段がクダンスターと比べて安い上に個室になりますので、明日に備えてそこにチェックインしましょう。」と言って、宿屋に案内したスケト。

宿屋にチェックインを済ませた4人はスケトが知っている酒場で一緒に食事をすることにした。

値段が安い割にはかなりボリュームがある料理が運ばれてきた。さらに酒のエールが入っているマグカップ3つ...それを頼んだのはスケトとヴィオ以外の男性3人だった。ちなみに残りの二人はブドウジュースだった。

「一緒に飲めばいいのに...」と飲酒の誘いをした戦士の男だが、スケトは笑顔できっぱり断った。

「僕にとっては皆さんの冒険が終わるまでが仕事ですので、飲酒は控えさせていただきます。」

「チェ...つれないな」とすねた戦士の男。

「飲酒を強制することはマナーとしては良くないですよ。」と少し呆れた顔で戦士の男に注意した魔法使いの男。

「まあまあ...今日はほどほどに飲んで、しっかり休もう。」と言って、いつものように会話に割り込んで始まろうとした2人の喧嘩を止めた神官の男。

「では、明日の冒険のために乾杯!」とマグカップを上げた戦士の男はそう言って他の仲間とスケトにマグカップをぶつけて、祝杯をあげた。


しばらくのたたわいのない談笑が続けていた。


「ねえ...あの島国で王国にはないジョブがあるって聞いたことがあるけど、本当にいる?サムライとかニンジャとか」と酒で酔っ払った戦士の男は陽気のままでスケトに質問し始めた。

「はは...よくご存じですね。まあ、ドゥナリアスでは実際にそう呼ばれたジョブがありますよ。サムライは...王国の戦士に一番近いかと思います。ニンジャはちょっと特殊ですけど...」と手慣れの対応でその質問への回答をしたスケト。

「昔から聞いたけど、サムライは変な形している剣を使って、一振りで敵を斬り倒すとか...」とまたその話に絡み続ける戦士の男。

「その剣はカタナと言って、一振りでやるのは相当な鍛錬が必要ですね。」とまた大人の対応したスケト。

「あと!ニンジャはシュリケンという星みたいな小さなナイフを投げるとか分身を作るとか...」とまだ絡むことを止めない戦士の男に対して、スケトは相変わらず普通に話の相手をした。

「はは...お客様、ずいぶんうちの国については知っていますね。手裏剣というのは様々な形状がある小型の短剣です。ただ、それだけを使うという訳ではなく、クナイという両刃の方が使われると言われています。やはり誤解というかうちの国の話について伝わる話は全部がその通りじゃないですね。ちょっと先入観があって、勝手にそのような固定概念が定着したようです。特に...ニンジャは...」とスケトが話しながら、盗賊の女、ヴィオ・カミサカの方を見た。


「もういい加減にしてくれませんか。スケットさんは困っているに見えませんか。」とここで魔法使いの男は戦士の男に向けて少し怒った声で注意した。

「まあまあ...」と二人を止めながら、神官の男は「ごめんなさいね...こいつ酔っ払うと絡み酒の癖があるんで...」と謝りながら、説明した。

「いいえ...気にしていませんよ。こういうのは前から慣れたので...」と笑顔を崩さずに話したスケト。

「スケットさん、前に何をされていたのですか?」と自分の疑問を口にした魔法使いの男。

「まあ...一応はギルドに所属しました。今はどこにも所属しません。ただの雇われ身の案内人です。テリー冒険案内所では一応席を置いている感じだけです。」と自分のことを少し話したスケト。

「そうなんですか。」と納得したか分からないが、魔法使いの男はそれ以上詮索する気はなかった。

「では、僕はここで失礼いたしますね。明日は宿のフロントで8時待ち合わせでお願いします。僕は鍵の管理人のところに行って、先に鍵を借りてきますので、ご安心ください。ここから宿に帰るには遠くないし、大丈夫かと思いますが、くれぐれも帰りにはお気をつけてくださいね。では、良い夜を...」と笑顔を送ってから、お辞儀をしてスケトはその場を去った。

「え~?もう帰っちゃうの?」と酔っ払った戦士の男はスケトが去った後に気づいて、がっかりした顔をした。

そこでヴィオは突然立ち上がって、「帰る」と言って、スケトに追いかけて、店を後にした。


店を出たヴィオはスケトを探すために走って、追いつこうとした。

しかし、スケトが目の前にいるところで不注意に通りすがる人とぶつかってしまった。

尻餅をついたヴィオは慌てて立とうとしたが、ぶつかられた強面の男が目の前に立っていた。

「いてーな...嬢ちゃん...どこを見て走っての、は?」とかなり圧をかけた声で文句を言ってきた強面の男はヴィオの顔をよく見ようとして、少ししゃがんだ。そして、目を大きくした。

「嬢ちゃん...その髪と目...ドゥナリアス人かい?」と急にいやらしい顔をし始めた。

その圧と強面でいやらしい顔を見たヴィオは怖くなって、言葉が出てこなかった。

「裏ではかなり価値があるからな...どうだい?高収入の簡単な仕事を紹介するから、俺と来ないか?」という訳分からないことを言って、ヴィオの腕を掴もうとした男に対して、ヴィオは目をつぶって、小さな声で母国語で「タスケテ」という言葉が震えた体から漏れ出した。

「何を言っているか分からないぞ...さあ...来いよ。」とヴィオの腕を掴もうとした瞬間、誰かの手がその男の手を掴んで、上にあげた。


「うちのお客さんに無礼なことをするなんて許しませんよ」とそこにはスケトがいた。

スケトの顔を見た瞬間、強面の男の顔色が真っ青になって、怯え始めた。

「その黒い髪と目!あ、あんた!あの有名な助っ人!?た、大変失礼しました。許してください!」と頭を下げた強面の男。

「分かっていただけたら、それでいいですよ。では、うちのお客さんと用がありますので、邪魔しないでください。」と丁寧さを保ちながら、かなり本気な背筋を凍らせるトーンで強面の男に向けて言葉を放った。

その強面の男はただ「ひ~!」という声を出して、去って行った。


そこでスケトはヴィオを安心させるつもりか母国語で話した。

「立てますか?」

「うん...」と答えたヴィオは自分で立ち上がった。

「しかし、女性を一人で帰らせるなんて...お三方はあまりこの辺の治安に警戒心ないな...」とスケトは少し内心を口にした。

「違うの...あなたと話がしたくて、勝手に店を出たの...」と仲間への誤解を解く同時にスケトに追いかけた理由を打ち明けた。

「僕と...ですか?」と少し首を傾けて指で自分に指すスケト。そこでスケトは一つの提案をした。

「じゃ...宿のロビーで少し話をしましょうか?」


二人で宿屋に戻った二人はロビーにある席で座って、しばらく立つとヴィオは話をし始めた。

「私...ドゥナリアスで生まれて、お母さんに育てられたの。お父さんは遠い国にいるって聞いて、お母さんが死んで、葬式で初めて会った。そこでここに移住することになったけど、この髪色と目の色のせいで誰にも仲良くしてくれなくて...仲間の三人と会うまでは孤独だった。だから、同じ出身のあなたと逢えて嬉しかった。本当に母国語が話せるだけでこんなに安心するんだなって。」と自分の事情を話したヴィオ。

「そうですか...お母様は...それはご愁傷様でした。その後の生活の大変さは心中お察しします。」と何かの共感をしたかスケトも悲しそうな顔をした。

「今は仲間のおかげでなんとか楽しんでいます。しかし、さっき...伝説の助っ人って...それは何のことですか?」とヴィオは急にさっき聞いた気になるワードについて問いかけた。

「あ...それはただの噂ですよ...こんな目立っている見た目なので、誰かが噂をばらまいたせいかそう呼ばれるようになりました...はは」と苦笑したスケト。

そこで、ヴィオは本当に聞きたかった質問を投げた。

「スケトさんはなんで...あなたはのですか?」


「それは...」


彼の名はスケト・タチバナ

現在はダンジョン案内人を務めている。

彼は何者だったか...

彼の過去を知ることになる。

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