テリー冒険案内所クダンスター支店にようこそ!

王都のクダンスター地区の街の片隅にある【テリー冒険案内所クダンスター支店】


その扉を開けると、中には昔が飲み屋のような作りから簡単に改造された雰囲気を醸し出す店内だった。

入り口のすぐには受付のカウンターがあり、カウンターの裏には木の板を壁にして作られた簡易個人ブースが複数あり、そこには人が何人か座って、何かの作業をしている様子が窺える。

そこで、来客に気づいた一人の女性は受付カウンターまでに歩いてきた。


その彼女は眼鏡をかけている長い金髪と茶色の瞳をしている。

彼女は訪れた4人に優しい笑顔で挨拶をし始めた。

「テリー冒険案内所クダンスター支店にようこそ!私、受付を担当させていただきます。【ミュウ・ロングパイン】と申します。どうぞよろしくお願いいたします。」と丁寧に挨拶したミュウと名乗る案内所の受付嬢。

そして、次に4人に「どこからいらっしゃったのですか?」と問いかけた。


それに対して、魔法使いの男は回答した。

「アマティサです。王都の北の方にある隣の街ですが、かなり距離があったので、ここに来るのは一苦労でした。」

「そうですか...そちらもすでに王国の中でも規模第二の都市ではないですか...わざわざ王都まで来るとはまた大変でしたね。」と彼女が少し驚いた顔で言葉を返してから、次に話した。

「では、改めて今日はどのご用件でしょうか?」と要件を聞こうとしたミュウ。その質問にまた魔法使いの男は説明した。

「私たちが昨日宿泊した宿屋でこの広告を見ましたので、ぜひ私たちの冒険のサポートを頼みたいですが、どのようなサービスがありますでしょうか?」という答えにミュウは魔法使いの男に笑顔を送って、こう答えた。


「ダンジョンの紹介...案内人の派遣...通訳...アイテムや装備のレンタルなど...と他にもお客様のご要望に応えられるようにご相談も承ります。」

「そうですか...では、まずダンジョンの紹介からお願いします。」と答えた魔法使いの男。

「かしこまりました。ダンジョンのご要望がありますでしょうか?」とより詳細を聞いたミュウ。

「私たちは冒険者を初めてまだ長くないので、できれば初心者向けのダンジョンからでお願いします。」と神官の男が追加で自分たちの要望を話した。

「なんだよ...ロマンないな...」と急にその要望にツッコミを入れた戦士の男。

「あなたも少し自分...というより私たちの実力を考えてください。私たちのレベルはまだまだです。再試験のためにも基礎から考えないといけません。」と魔法使いの男が戦士の男のツッコミを論破しようとした。

「かしこまりました。では、こちらのダンジョンはいかがでしょうか?」とミュウという女性が地図のような紙を取り出して、4人に見せた。


「こちらのダンジョンは王都の中にある地下ダンジョンになります。基本的にはイフカダ地区の方にありますが、ここからは少し1時間前後で徒歩ができる距離です。基本的には低級ローレベルモンスターしか出現しませんが、希に上級ハイレベルモンスターが出現しますので、長居したり深入りし過ぎない限りは特に問題がないかと思います。」とその紙に書いた詳細を説明した。


「そう...ですか...皆はどう思う?」と他の仲間に意見を聞いた魔法使いの男。

「こちらなら、まだ安心できるかな...」と自分の意見を述べた神官の男。

「まあ...いいじゃない?」と渋々に了承した戦士の男。

そして、少し目を輝かせながら、うなずいた盗賊の女。

「では、こちらでお願いします。」と最終的に決めた魔法使いの男。

「かしこまりました。では、まずこちらの契約書にご署名ください。」と笑顔をしたミュウは別の書類を差し出した。

「契約書...ですか?」と不思議そうな顔をした神官の男。

「ダンジョンの紹介は基本無料ですが、案内人や通訳が必要の場合は有料になります。」という説明をしたミュウの言葉にまた戦士の男がツッコミを入れた。

「出た!ここでお金を取るのか?」

「強制ではありませんので、紹介のみであれば料金は発生しませんが、トラブル回避のために署名が必要になります。」

「そうですか?それは仕方ありません。では、皆さんの署名を...」と納得した魔法使いの男は他の仲間にも署名するように促した。


とりあえず署名を済ませた4人。そして、その署名を確認したミュウは皆の名前をふむふむと読み上げた。最後の盗賊の女の名前までは気にならなかった。しかし、彼女の名前を呼んだミュウは首を傾けて、書いている名字を何か気になったみたい。


「【ヴィオ】...【】さん...ですね。この名字...王国の言葉ではないようですが、どこからいらっしゃいましたか?」とただ気になって聞いたミュウに対して、盗賊の女は何かを戸惑いながら、しばらく沈黙してようやく口を開けた。


「え...えーと」というのは第一声だった。


「ご安心ください。こちらには王国以外の様々な国の言語が話せる方がいますから、もしかしたら、まだ王国の言葉が流暢に話せないであれば、そのサービスも提供いたします。」と説明を加えたミュウに対して、神官の男は彼女に向けて話し始めた。

「ヴィオは何年前から知り合って、王国出身じゃない母親が亡くなって、王国にいるお父さんに引き取られたのです。いわゆるハーフです。そのため、まだ王国の言葉がうまく話せません。でも、ナイフ裁きなどのスキルは確かなので、一緒にパーティをやっています。話せないせいかもともとの性格なのかほぼ無口でしたが、一応パーティ内では支障がありません。ただ、この見た目なのであまり王国に馴染むことが苦労しているそうです。」

「そう...でございますか...は王国では見かけないので、個人的にはすごくきれいだと思いますけどね。」とミュウはヴィオ・カミサカという盗賊の女に向けて、笑顔で褒め言葉を口にした。

「あ、ありがとう...ございます...」とボソッと御礼の言葉を話したヴィオ。これで第二声。


「ミュウさん、ちょっといいですか」と突然その会話に割り込んだ形である一つの個人ブースから誰かの声が聞こえてきた。

「あ!さん...もしかしてと思いますけど...スケットさんなら分かると思いました。では、お願いします。」と店内の誰かに話しかけたミュウさん。そして、個人ブースから一人の男性が出てきて、受付カウンターまで歩いてきた。


その人は男性で、顔立ちは整ったが、髪色と瞳の色がをしている。

「初めまして。【スケト・タチバナ】と申します。この国では珍しい名前ですので、スケットと呼んでいただいても構いません。」と自己紹介をした男性。

「へ...あんた...王国出身の人には見えないね...目の色と髪色が...というかうちのヴィオと似ている...」とスケトという男性の見た目に驚いた戦士の男。それに対して、スケトは笑顔で返して、こう述べた。

「そうです。【ドゥナリアス】というここからかなり遠い島国から来ました。」


金髪と茶色の瞳は王国出身の人間の大半の容姿である。

もちろん茶髪や別の目の色などもいるが、黒髪とさらに黒い瞳までになると、ドゥナリアス出身の人しか存在しないほど王国ではまずはあまり見かけない。

とそこでスケトは次にあることを言い出した。


「そちらのお嬢さんに少し話しをさせていただいてもいいですか?」

「あ...どうぞ」と一応許可をした神官の男。

そこから、しばらくスケトはそこにいる皆が聞き取れない言語でヴィオに話しかけ始めた。

そして、ヴィオも今までの無口であることが信じられないほど言葉を口から溢れ出した。

しかし、それは皆が聞き取れないだった。

「うん...うん...分かった。お待たせしました。事情は分かりました。もしよろしければですが、カミサカさんが皆さんとの会話をよりスムーズにするためにダンジョン案内人兼通訳で案内させていただきますが、いかがでしょうか?」と提案したスケト。その回答を待たずに彼はまた説明を加えた。

「カミサカさんはその張り紙に書いてある詳細のところで、通訳のサービスには彼女が知っているドゥナリアスの言語が入っているから、そこで興味を持ったそうです。」

「だから、あんなに興味津々なのか...ヴィオ...」と少し驚いた神官の男。

そして、ヴィオはなぜか言葉を発しないでただうなずいた。

「そうだ!今回はその張り紙をご持参した御礼で料金はゼロにさせていただきますよ。」とさらに提案をしたのは受付嬢のミュウだった。

「え?それはお得だな!」と関心した戦士の男。

「それでいいですか?」とまだ半信半疑の魔法使いの男。

それに対して、「はい!今回はト・ク・ベ・ツで...」と満面の笑みを見せたミュウ。


そこでスケトは改めてお辞儀をして、次のように述べた。

「改めてご利用ありがとうございます。ドゥナリアス語担当のスケト・タチバナです。母国ではこの名前は助っ人という意味でもありますので、スケットとでも呼んでください。今回のダンジョン案内と通訳としてお客様である皆さんの冒険をサポートさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。」と丁寧に改まった態度で自己紹介したスケトはまた言葉を述べた。

「では、ご契約いただいたときの注意事項です。契約の通り、全力でお客様の冒険をサポートいたします。しかし、皆さんが選択して、取った行動とそれに伴う結果までは一切責任を持ちません。まずはそれをご了承ください。しかしながら、お客様の安全は最優先事項ですので、命に至る時は全力でお守りいたします。それまではあくまで案内人兼通訳としての務めを全うする所存です。これでよろしいですね?」と話した生々しい内容とは裏腹に笑顔をしながら淡々と述べたスケト。


こうして、4人のはずだった冒険はダンジョン案内人兼通訳が無料で付くことになりました。

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