洋館と当主、そして泥棒さん

一陽吉

ようこそ洋館へ

「きっししししし……」


 真夜中に自分が住む洋館へ賊が入って喜ぶのは歴代当主でも彼女だけだ。


 ユナ・オルガンズ、十歳。


 金髪ロングストレートに緑の瞳をした彼女はいま、ネグリジェを着たまま両手でクロスボウを持って、廊下のかどに身を潜め、賊の様子を伺っていた。


 賊はその視線など知るよしもなく、金目の物がある部屋はどこかと探し歩いている。


 年齢は二十代前半の男子で、盗みに関してはそれほど慣れてはいないようだった。


 服装もなるべく黒いものを着こんではいるが、口を覆う布は白であり、窓から侵入する際も鍵開けに手こずり大きな音をたてていた。


 警備の者がいたなら完全に気づかれていただろう。


 おおかた、小娘が一人で住んでいるのなら容易たやすく金品を手に入れられると考えての犯行だろうが、それは叶わない。


 むしろ、なぜ小娘一人が洋館に住んでいられるかを考えるべきであった。


「そんじゃ、いっくよ~」


 呟くと、ユナはクロスボウを構え、賊が背を向けた瞬間に引き金を引いた。


 シュ。


「っぐ……」


 小さく声をあげると、賊はその場に倒れた。


 そのままぴくりとも動かないが、これは賊を殺害したからではない。


 クロスボウの矢は賊の肉体を、悪意を射抜いたからだ。


 ゆえに賊は意識を失い、魔法の矢で射抜かれた悪意は切り取られた影のようになってバタバタと暴れていたが、すぐに力尽き、矢とともに消滅した。


「きっししししし、終~了~」


 満足したユナはクロスボウを担ぐと、賊を残したまま寝室へと向かった。


 やれやれ。


 それでは当主ユナの魔力を借りて、洋館の形をした魔物である私は賊を敷地の外へ転移させるとしよう。


 最年少にして最強の魔導具使いであるお転婆な当主。


 彼女が今後どのように成長していくのか楽しみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

洋館と当主、そして泥棒さん 一陽吉 @ninomae_youkich

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画