第18話 少女の事情聴取

「俺の追っている事件と関係があるってどういうこと?」


 会議室に入る前に紗季に尋ねる。


「狩谷さん、家出少女の連続暴行事件を追ってるって聞いたんですけど、合ってます?」

「ああ、今調べようとしてるはその事件だな」

「その被害者も買ってたみたい何ですよ。今回出回っている薬」

「なるほど。確かに繋がりはあるってことだな」


 俺は、紗季と一緒に会議室へと入る。

少女は椅子に座って俯いている。 


「初めまして。狩谷と申します」


 名刺をテーブルの上に置くと、対面の椅子に腰を下ろす。


「僕にも、話を聞かせてくれるかな? 暴行された家出少女も薬買ってたってのはどういうこと?」

「その、友達なんです……」


 少女は声をしぼり出すように言った。


「お友達?」

「はい、その友達から新しい自分に出会えるって進められて、最初は一回だけのつもりだったんです。でも、また欲しくなって」


 薬物の依存性がすでに発揮されているのだろう。


「友達は、薬買うお金が無くなったから、援交してお金稼ごうとして……」

「そこで、暴行されたんだね?」

「はい、そうです」


 薬物が新たな事件被害を起こした。

これは、珍しいことではない。


「それって1人だけ?」

「私が知っているのは、3人です」

「全員あの売人から買ってたの?」

「はい、安く売ってくれるので」


 家出少女には、同じ境遇を持つ者同士のネットワーク的な者があると聞いたことがある。


「分かった。よく話てくれたね。あとは任せときな」

「その、ありがとうございます」

「大丈夫だよ」


 こういう境遇の子たちにはできるだけ、手を差し伸べられる人間でいたい。


「彼女、堂本先生の所に連れて行ってあげて。あの先生なら、頼りになるから」

「わかりました」


 堂本俊太郎。

元警視庁の依頼を受けて司法解剖をする解剖医だった。


 声なき声を聴き続ける法医学のスペシャリストで、世界的権威として法医学界を牽引して来た。

半世紀近く“法医“という厳しい世界に身を置いたのは、その根底にある不屈の正義。

その正義で数多くの謎と対峙して来た人間だ。


 大学教授を退官して、惜しまれながらも法医学者を引退。

そして、今では薬物犯罪の被害者たちと向き合って治療をしてくれている。


「俺も久しぶりに会いに行くか」


 父親を早くに亡くした俺にとって、堂本先生は俺の父親的な存在だ。

事件に行き詰まった時は法医学的観点から、意見をよくもらっていた。

 

 しかし、事件を解決するのは刑事の仕事と、あくまでも法医学者としての立場をわきまえていた。

堂本先生のおかげで解決した事件も数多い。


「堂本先生の所行く時にまた声かけて。俺も一緒に行くから」

「了解しました」


 そう言って、俺は会議室を後にする。

聴きたかった情報は十分に聞くことができた。

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