第17話 警察署長
栗田署長とは、俺が神奈川県警に居たころからの付き合いである。
当時、署長は警視庁捜査一課の管理官をしていた。
神奈川と東京の合同捜査本部が設置された時、何度か一緒に仕事をしている。
その時から、署長は俺のことを気にかけてくれていた。
「今度はヤクの売人を捕まえて来たんだってな。お手柄じゃないか」
「ありがとうございます。でも、元締めを捕まえないことには、無くなりませんよ」
今回、逮捕したのは下っぱの売人だろう。
こういうのは、上を捕まえないと意味がない。
また、新しい売人が出てくるのだ。
「それでも、君が新宿に来てから管轄内の犯罪率は低下していることは事実なんだからな」
「偶然じゃないですか?」
「いや、君が見回りを始めた時期から減っているんだから紛れもなく君の功績だろう」
何はどうあれ、犯罪率が下がっているのは嬉しいことである。
「こちらこそ、署長には感謝していますよ。警察庁の僕がこうして新宿で自由にやらせてもらってますから」
現場一筋の刑事からしたら、警察庁のエリートというだけで嫌悪感を抱くという。
俺はその点、現場の人間だったので人望もあるようだが。
「警備局長から直々に頼まれちまったからな」
警備局長は警察庁のエリート幹部で、俺の上司に当たる人だ。
「まあ、局長様から言われなくても俺は協力するつもりだったがな。君の目は衰えていない。まだ、刑事の目をしてる」
「なんですかそれ」
「まあ、そう言わずにこれからも頼むよ」
そう言って、栗田署長は俺の肩をぽんと叩く。
「頑張りますよ。僕は、この街が好きですから」
「次は何をやるつもりだ? もう、決めているんだろう?」
署長には分かっているらしい。
俺が次のネタを掴んでいることを。
「署長には隠せませんね」
「何年、君を見て来たと思っているんだね」
そう言って、署長は笑みを浮かべる。
「家出少女を狙った、連続暴行事件です。それを解決しようかと思います」
俺がそう言うと、署長の表情が一瞬曇ったのを感じた。
「大丈夫なのか?」
署長は、俺の過去を知っている。
なぜ、警察という組織を一度去ったのかも。
「心配しなくて大丈夫ですよ。もう、二度と同じことは繰り返さない。そう、誓ったんです」
「そうか。無理はするな。君はもう我が署だけではない。警察の希望なんだからな」
「褒めても何も出ませんよ。じゃあ、俺はこれで」
そう言うと、俺は署長室を出た。
そして、さっき逮捕した売人の様子を見ようとして取り調べ室へと向かっていく。
「あ、狩谷さんちょっとよろしいですか?」
紗季に声をかけられた。
「薬を買っていた彼女の話、狩谷さんも一緒に聞いてくれませんか?」
「何かあったのか?」
「多分ですけど、狩谷さんが今追っている事件と繋がっているかと思います」
「分かった」
俺は紗季と一緒に事情聴取が行われている、会議室へ入った。
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