第15話 裏社会のボス②
俺は、親父さんの対面のソファーへと腰を下ろす。
「お前さんが来たってことは、欲しいのは情報だろ?」
「ええ、その通りです」
「何が欲しい?」
「これについての情報です」
スマホに、隆也からもらったドラッグの写真を表示して、夏目の親父に見せる。
「最近ここらで出回っているヤクか」
「やっぱり、知ってましたか。でも、親父さんところはヤクはご法度ですよね」
「ああ、そうだ。売ったとしても学生には売らねえ。そういう方針だ」
夏目組は昔ながらの仁義を重んじる組だ。
食うに困って腹を空かせてる者には何か食わせてやるし、組長への忠誠心が強い。
だからこそ、組長に逆らってヤクを売買していたなんて分かったら、命のが無い。
昔は、覚醒剤の売買をしていたこともあるみたいだが、売る相手は成人している大人たち。
中高生には絶対に売らなかった。
「このドラッグの出どころを探ってる。そういうことか?」
「そういうことです。親父さんところで情報は掴んでますか?」
この歌舞伎町の裏社会で、何か動きがあれば情報は親父さんのところに集まって来る。
夏目の親父に気に入られたら安泰だが、裏切ったらこの世界では生きて行けない。
「お前さんには散々世話になってるからな。教えてやる」
「ありがとうございます」
「アレースって知ってるか?」
「最近、このあたりをウロチョロしてる半グレですか?」
ここ最近、歌舞伎をウロチョロしている質の低いやつらがいるのは知っていた。
その半グレ集団がアレースと名乗っている。
半グレとは、暴力団とはことなる犯罪集団だ。
そこに、仁義や人情などといったものは一切無い。
暴走族のOBなんかが集まって結成されることが多いようだ。
近年の暴力団の衰退と対をなすように台頭してきた組織である。
「そいつらの仕業ってことは分かってる。こっちもうちのシマ荒らされてそろそろ黙っておかねぇつもりだったが、お前さんが片づけてくれるってことなら、情報売ってやる」
「ええ、潰すつもりですよ」
俺は、ドスの効いた声で言った。
「おっかねぇなぁ。お前さん、敵に回した奴らに同情したいくらいだ」
「それで、どこまで掴んでるんです?」
「ちょっと待ってな」
親父さんはメモ帳に万年筆を走らせる。
「ここだ」
そこには、歌舞伎町のある住所が書かれていた。
「今夜、そこで奴らが取引する。そこを捕まえたらどうだ?」
「確かな情報ですか?」
「それは、俺が保証する」
「分かりました。では、この情報もらって行きます」
俺はメモを受け取って立ち上がる。
「あ、そういえばこれは独り言なんですけど、来月シャーメルって風俗店にガサが入るって言ってたなぁ」
「俺は、お前さんのそういう所が好きなんだよ。また、頼むわ」
「では、俺はこれで失礼します」
そう言って、俺は夏目組の組事務所を後にするのであった。
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