第13話 狩谷の抱えるもの

「じゃあ、行こうか」


 俺は、瑠璃を連れて新宿署を出る。

そして、歩いて10分ほど歩く。


「先生、ここは……?」


 そこは、同じ新宿区にあるとあるマンションだった。


「今日から、しばらく君の家になる場所」


 エントランスの鍵で、扉を開いてエレベーターに乗る。

俺は5階のボタンを押した。


「元々、ここはうちが持ってるマンションだから、セキュリティとかは安心だよ」


 ここは、警察庁が持っている物件の一つである。

以前、張り込み用に借りたらしいのだが、そのまま手付かずになっているので、俺がこうして管理している。


「生活に必要な最低限なものは置いてあるつもりだけど、足りないものがあったら買い足して。これ、ここの鍵」


 俺は、瑠璃に鍵を手渡した。


「ありがとうございます。先生はなんで私のためにここまでしてくれるんですか?」

「なんでか……まあ、見過ごせなかったからかな」


 俺は、瑠璃とある少女を重ねていたのだと思う。

あれは、もう5年も前に遡る。


 俺が、警察を止めるきっかけとなった事件。

1人の少女に俺は相談されていた。


 その子も家出少女だった。

当時の俺は神奈川県警の捜査一課に所属していた。


 新宿で起きてることは、管轄も違うし部署も違った。

そして、当時は世間を騒がせていた連続刺創殺人事件の対応で忙しかったのだ。


 そう、俺は忙しいを言い訳に逃げたのだ。


 その数日後。

俺に相談をしてきた少女は遺体となって見つかった。

変態野郎に首を絞められて殺されたのだ。


 俺は後悔した。

あの時、ちゃんと相談に乗っていれば、助けられた命だったかもしれない。


 責任を感じた俺は、警察の職を辞した。

そして、教師となった。


 教師として、彼女と同じくらいの子を導くことが、彼女への贖罪のつもりだったのかもしれない。

あの時は、もう警察に戻ることは無いと思っていた。


 しかし、人生というのは何が起こるかわから無い。

公安に来ないかと言われた時は迷った。

俺が警察という組織にいて人間なのか。


 それでも、今の仕事は俺にとって天職であると言える。


 もう、再び同じ過ちを繰り返さないように。


「キモいよな。いい大人が」


 気づいたら、俺は瑠璃に話していた。

なんで話たのかはよく分からない。


 今まで、自分から話したことなんて無かったのに。

俺の事情を知っている関係者たちも、この話題は出さない。


 俺が、まだ引きずっているのを知っているから。


「そんなことありません! 先生にそこまで思われているその子は、きっと嬉しかったと思います」

「ありがとう。なんか、俺が励まされちゃったな」


 本来、俺が励ますべき立場なはずである。

俺以上に、瑠璃には抱えているものがあるのだから。


「これ、渡しとく」


 俺は、瑠璃に名刺を手渡した。

そこには、俺の連絡先が書かれている。


「何かあればすぐ電話して。いつでも出るようにしてるから」

「わかりました。何から何までありがとうございます」


 瑠璃は俺の名刺を受け取った。

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