第11話 身を売る少女

 俺は、隆也の隣の椅子に座る。


「さっき、歌舞伎町でヤクが流行っているって話しましたよね?」

「ああ、そうだったな」

「それとは別件になるんですけど、最近パパ活や援助交際をしていた少女が立て続けに暴行されるという事件が起きました」

「詳細、教えてくれ」


 スーツのポケットから手帳を出すと、そこにメモをしていく。


「なんでも、パパ活することを装ってホテルまで行き、そこで暴行するのだとか。普通のサラリーマンのような優しい見た目から、ついて行ってしまう少女が多いようです」

「クソ野郎だな」


 新宿歌舞伎町。

俺は、この街が好きだ。


 俺は新宿の地で生まれ育ち、新宿で教師になって戻ってきた。

新宿という街にはたくさんの思い出がある。


 歌舞伎町というと、イメージはあまり良くないかもしれない。

しかし、一昔前の歌舞伎町からはかなり変わったと思う。


 少しずつだが、街は綺麗になっている。


「最初は暴行だけだったんですが、最近は手口がエスカレートしています。このままだと、死者が出るかもしれません」

「そりゃ、放っておけないな」

「はい、被害者は我々が把握しているだけで6人にまで及んでいます」


 実際にはもっと多い可能性がある。

歌舞伎町という街に集まる少女は、何かと訳ありのことが多い。


 行き場を失った彼女たちが最後に行き着く街なんて、呼ばれたりもしているくらいだ。


「俺に恥を忍んで相談してるってことは、お前らじゃもう手に負えないレベルってことだろ?」

「お恥ずかしながら、その通りです。公安の先輩なら、何かできるんじゃ無いかと思いまして」


 1所轄ができることなど限界がある。

パトロールを増やして見守ることくらいが精々だろう。


 しかし、俺ならまだ出来ることがある。

そう思って、隆也は俺に相談した。


 公安という立場を使えば、大抵のことは許されてしまう。

我ながら、特権に近いようなものだと思う。


「じゃあ、この件は俺に預けてくれ。その変態野郎をとっ捕まえてやるよ」

「でも、どうやって。それはまあ……」


 俺は隆也に耳打ちする。


「公安お得意の違法捜査ってやつだ」

「流石っすね。先輩には敵いません」


 俺が、そんな話をしていると、紗季が個室から出て来た。


「狩谷さん、彼女、少し落ち着きましたよ」

「そうか。悪いないつも手間かけて」

「いえ、私は警察官としての職務を果たしているだけですから」


 紗季は正義感が強い。

警察官として、ちゃんと自分に信念を持っている人間は成長すると思っている。

だからこそ、俺は紗季を信頼している。


「瑠璃は?」

「今はソファーで寝ています。張り詰めていた緊張の糸が切れたんでしょうね」

「悪いんだが、今晩は瑠璃のこと頼んでもいいか?」

「もちろんです」


 紗季は快く引き受けてくれた。


「じゃあ、何かあったら連絡して。俺は一旦帰ります。また朝には来るから」

「了解です」


 俺は、新宿警察署を出ると、タクシーを拾って自宅へと戻るのであった。

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